理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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動的な立位バランス評価指標と身体重心移動・身体特性の関係性
石田 水里対馬 栄輝
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p. Ab0451

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抄録
【はじめに】 制御工学に基づく動力学計算手法を応用して,動的な立位バランス評価の判断指標を得るとする.振り子運動などの制御システムの安定性を表現する固有振動数(ω)と減衰比(ζ)という指標がある.ωは主に揺れの速さに関連する指標で,値が大きいと素早い振動を生じやすい.ζは振動の減衰しやすさを表す指標であり,値が小さいほど減衰しにくいため揺れが大きくなる.これら2つの指標を組み合わせて考えると,例えばωが小さくζが大きければ揺れは遅く小さい状態,逆にωが大きくζが小さければ揺れは速くて大きい振動的な状態になるといった,運動の円滑性を表現できる.立位で身体前傾・復位する動作を振り子運動と仮定し,安定状態が異なる複数の立位条件下でのω・ζを求めると,不安定な立位条件下ではωが大きく,ζが小さくなる特徴がある(石田ら,2009).また,身体重心移動軌跡の観察上でも,ω・ζの大小による軌跡の円滑性変化が把握でき(石田ら,2010),動的立位バランス評価の指標として利用できる可能性がある.ところで,振り子運動では振り子の長さや質量は重心移動の大きさに直接的な影響を与えるが,身長・体重といった身体特性と立位バランスとの関係性は明らかでない.ここでの目的は,ω・ζと身体重心移動特性,身体特性との相互関係を確認することである.【方法】 健常成人12名(男性7名,女性5名)を対象とした.対象の平均年齢は22.4±1.2歳,平均身長は166.9±7.3cm,平均体重は58.6±6.2kgであった.被検者の左肩峰,大転子,外果に反射マーカーを貼り付け,上肢を組んだ立位姿勢から身体最大前傾し,復位する動作課題を行ってもらった.被検者にはできる限り股関節運動を伴わずに足関節運動を主体として動作を行うよう指示しておいた.動作の速さに関しては規定せず任意とした.様々な立位安定状態を想定した測定条件として,1)両脚・開眼,2)両脚・閉眼,3)片脚・台あり(開眼で片脚立位をとり,挙上側下肢を角度可変の補助台上に乗せて課題を行う),4)片脚・台なし(補助台は使用せずに開眼・片脚立位で課題を行う)の4条件を設定した.順序の効果を考慮するため循環法を利用して条件配置し,各条件5回ずつ課題をくり返した.動作時の各マーカー位置を三次元動作解析システムVICON460(VICON MOTION SYSTEMS)で解析した(sampling rate 120Hz).ωとζは動力学的計算手法を利用し,矢状面の運動に関する足関節および股関節の角度データと各被検者の身長,体重,上下肢長といった身体特性値を適用させて,全測定分について算出した.また上半身と下肢の重心位置をそれぞれ推定し,前後方向の重心移動に関する最大重心移動距離(上半身GL・下肢GL),最大重心移動速度(上半身GV・下肢GV),最大重心移動加速度(上半身GA・下肢GA)を求めた.4つの測定条件下で得たすべてのω・ζと上半身・下肢の各重心移動データ,身長,体重の全10変数に対して,主成分分析を行った.統計解析にはSPSS 19(日本IBM)を使用した.【倫理的配慮・説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施した.対象者には研究の目的と内容を十分に説明し,同意を得た.【結果】 主成分は固有値が1以上となる成分まで求めた(累積寄与率75.4%).第1主成分の主要な変数は主成分負荷量の大きい順に上半身GV,下肢GV,下肢GL,上半身GL,身長,体重であり,上半身GAも中程度に関与していた(寄与率40.7%).第2主成分の主要な変数はω,下肢GA,上半身GAで,下肢GAも中程度の関与を示した(寄与率22.8%).第3主成分の主要な変数はζであるが,上半身GL,身長,体重も中程度に関与していた(寄与率11.9%). 【考察】 第1主成分には,身長や体重に比例して重心移動距離・速度が変化する単純な関係性が現れたと考える.重心移動加速度は距離・速度の大きさに依存せず,重心移動の振動状態との関連が高いと解釈できるため,ωと重心移動加速度を含んでいる第2主成分は重心位置制御における素早さを表現する成分と考えて矛盾はないだろう.第3主成分の主要な変数であるζは,ωとは異なる側面を捉える指標であると確認でき,動的立位バランスを表現するにはω・ζの2つの変数を組み合わせて用いるのが妥当であると考える.【理学療法学研究としての意義】 ω・ζによる数値として表現することで,動的立位バランスの客観的な評価に役立つ.身体重心移動距離や速度といった数値の大小は,単に身長・体重の影響を受けて変化しているだけである可能性は否定できない.一方,運動の円滑性を表現し得るωとζは立位バランスの指標として適すると考えるが,臨床応用する上ではデータ収集に関わる設備や計算過程の複雑さが課題となるため,手軽に実施できる環境・方法を考案する必要がある.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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