抄録
【はじめに、目的】 理学療法を行う上で姿勢や動作分析を評価する際、片脚立位を見ることが多く、骨盤傾斜角は重要な着眼点である。諸家により片脚立位時の骨盤傾斜が後傾するほど重心動揺が大きくなる事が報告されている。重心動揺の評価指標として、総軌跡長や矩形面積などが使用されることが多いが、重心動揺計による評価指標と対象者が示す姿勢制御能力が一致しないという報告も見られる。今回、骨盤傾斜角が片脚立位に与える影響について、重心動揺偏位の大きさである重心動揺面積、および支持基底面内で重心線を随意的に動かせる範囲である安定域の大きさの2つの変数を用いて姿勢の安定性を評価することが出来る望月らの姿勢安定度評価指標を用いて、骨盤傾斜が片脚立位に与える影響を検討することを目的とした。【方法】 対象は健常成人7名(男性7名)、平均年齢24.1±1.5歳、平均身長172.1±6.5cm、平均体重62.6±4.9kgを対象とした。測定肢は右側とした。骨盤傾斜角は上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線と水平線のなす角とし、東大式ゴニオメーターにて角度を計測した。両脚立位時の骨盤傾斜角(両脚骨盤傾斜)と片脚立位時の骨盤傾斜角(片脚骨盤傾斜)、両脚骨盤傾斜から片脚骨盤傾斜を引いた差を変化値として算出した。骨盤傾斜角のみ3日後に同一検者により再測定し、検者内信頼性を求めた。重心動揺計はMedicaputures製のWin-podを用いた。測定肢位は片脚立位とし、両上肢を前方で組ませ、遊脚側股関節屈曲0度、膝関節軽度屈曲位とした。測定は足底が浮かずに、安定して姿勢保持が可能な範囲で重心を前後、左右に移動してもらい、初期の身体動揺が収束した後、重心動揺を計測した。測定は支持基底面内中央、前方、後方、外方、内方の順で片脚立位の測定を行った。各測定箇所につき、測定時間10秒、試行回数3回とし、測定間の休憩は30秒間とした。また、測定中に足底が浮いた場合、体幹が大きく動揺した場合、その測定は無効とした。姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability;IPS)は望月らのIPS算出方法に従い、重心動揺面積、安定域面積、IPSを算出した。これらの測定から骨盤傾斜角(両脚骨盤傾斜、片脚骨盤傾斜、変化値)と重心動揺面積、安定域面積、IPS、従来の重心動揺のパラメータ(総軌跡長)との関連について検討した。統計処理には各指標の関連にはSpeaman順位相関係数を用い、骨盤傾斜角の信頼性の検討として、級内相関係数[ICC(1,1)]を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立ち、研究の目的や方法、研究の参加により生じる利益や不利益、研究成果を学会などで公表することなどについて被検者に対し十分に説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】 各々の平均値は両脚骨盤傾斜14.1±3.8度、片脚骨盤傾斜10.9±2.2度、変化値3.3±2.6度、重心動揺面積923.3±227.7mm2、安定域面積1131.1±665.7 mm2、IPS0.3±0.2、総軌跡長357.6±59.7mmであった。重心動揺面積と両脚骨盤傾斜(r=-.927.p<0.01)、片脚骨盤傾斜(r=-.852.p<0.05)の間に有意な相関関係が認められた。その他の間には有意な相関関係は認められなかった。級内相関係数は骨盤傾斜角のみ、立位時ICC=.915、片脚時ICC=.821となり、高い一致度が得られた。【考察】 骨盤傾斜角とIPS、総軌跡長の関連について検討した。骨盤傾斜角(両脚・片脚)と片脚立位時の重心動揺面積の間に相関関係が認められたことから、骨盤傾斜が後傾するほど、重心動揺面積、つまり身体重心の偏位が大きくなる事が示唆された。また、骨盤傾斜の変化値とIPSのパラメータの間に相関関係が認められなかったことから、骨盤傾斜角の変化値よりも静的な骨盤傾斜角の指標が、臨床における片脚立位の身体重心の偏位を評価することに有用であることが示唆された。しかし、安定域面積やIPS、総軌跡長への影響が見られなかった。このことから、片脚立位の姿勢制御において安定して重心を移動することができる範囲は、骨盤傾斜角ではなく他の要素との関連がある可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 骨盤傾斜角と片脚立位の関係を安定域の大きさと身体重心偏位の大きさの面から検討し、骨盤傾斜角は主に身体重心偏位と関係があることで、理学療法介入において身体重心偏位に対する骨盤への介入の有効性につながると考えられる。