抄録
【はじめに、目的】 治療的電気刺激は一般に末梢の神経筋機能の改善を目的として行われるものである。しかし、電気刺激が生体へ及ぼす効果は筋収縮以外に体性感覚入力や筋収縮から生じる二次的な求心性入力を生じる.近年、この電気刺激によって中枢神経系に生じる興奮性変化が運動発現にどのように関連するかについて検討がなされている。特に、随意運動と電気刺激を併用することが皮質運動野の興奮性増加または脳の可塑性を誘導すること、さらに、脳卒中患者において,機能回復とともに損傷された脳の可塑的変化に関する知見も報告されている。しかし、この変化を生じる機能的メカニズムについての詳細は不明である。この方法の施行中に見られる皮質運動野に生じる継時的な興奮性変化を筋電図学的に分析することは電気刺激によるノイズの混入により困難となる。そこで、今回、電気信号によるノイズの混入が生じることがなく記録が可能な筋音図法(Mechanomyogram; MMG)を用いて電気刺激中の随意筋収縮による刺激筋とその拮抗筋を支配する皮質運動野の興奮性動態を経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を導出し分析検討した。【方法】 対象は、健常成人22名(平均年齢29.1歳SD±5.9)で男性10名、女性12名であった.電気刺激は電気刺激装置(日本光電社製)によって刺激パラメータを設定し,isolator(日本光電社製)によって刺激を行った.刺激電極は,ディズポ電極を用い,右橈側手根伸筋(ECR)に貼付した.刺激パラメータは,周波数100Hz,パルス幅100μsとし,5秒間on、5秒間offにて32分間の連続刺激を行った.刺激強度は,感覚閾値の1.2倍とした.被験者は安静時電気刺激群(RS群;7名)と随意収縮時刺激群(VS群;8名)、随意収縮群(VA群;7名)の3群に振り分けた。電気刺激中の条件は、RS群は安静状態のまま電気刺激のみを行い、VS群は電気刺激が5秒間流れている間に運動課題として視覚フィードバックにより手関節伸展20%最大収縮(20%MVC)を繰り返した。さらに、VA群は電気刺激を与えずVS群と同条件の収縮弛緩のみを繰り返して行った。3群とも刺激および運動課題を行う前に、ECRの状態をRS群は安静時、VS群およびVA群は20%MVCの状態としてMEPを記録した(control条件)。その後、刺激開始から0-2分、6-8分、12-14分、18-20分、24-26分、30-32分の各時間で10回のMEPを記録した。なお、MEPは刺激筋であるECRとその拮抗筋である橈側手根屈筋(FCR)の2筋から同時記録した。TMSはMagstim200(Magstim社製)を使用し,刺激コイルは8字コイルを用いた。 MMG計測は,筋音計(Medisens社製)を用いた.サンプリング周波数は2kHz,帯域幅は0.1-1kHzとした.データ解析は,3群とも各区間で計測されたMEPとcontrol条件の値をrepeated ANOVAおよびDunnett検定を用いて検討した.有意水準は,5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 当実験は所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て行われた.また、実験の内容について説明後,書面にて同意の得られた対象者に実験を行った.【結果】 RS群では電気刺激中を通してECR(N.S)、FCR(P<0.05)ともに全ての時間経過で皮質運動野の興奮性はわずかに増大していた。VS群ではECR(刺激筋)では時間経過とともに、皮質運動野の興奮性は顕著な増大を示した(P<0.001)。特に、controlと比較して後半の24分以降に増大が著しかった(P<0.05)。一方、FCRでは時間経過とともに、control条件と比較し有意に抑制が増加することが示された(全区間;P<0.001)。さらに、VA群のECR(刺激筋)ではVS群と同様に時間経過とともに、皮質運動野の興奮性は増大を示すものの有意差は認められなかった。また、FCRでもcontrol条件と比較し全区間で抑制傾向を示したが有意差は認められなかった。【考察】 電気刺激や随意収縮を単独で行うことに比較して電気刺激と随意筋収縮を同時に行うことで,刺激筋と拮抗筋において上位中枢制御に関して相反的な興奮性変化をもたらした。さらに、刺激筋を支配する領域の興奮性が時間経過とともに増大することが示された.以上の結果から、この方法論により随意運動改善に伴う脳の可塑性を機能的に誘導する可能性が示唆される.【理学療法学研究としての意義】 電気刺激と随意収縮を組み合わせて行うことで随意運動改善に伴う脳の可塑性を誘導し,有効な治療効果につながる可能性が示唆される.