理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
脳卒中片麻痺患者の上肢治療用リハビリロボットの開発(第4報)
―空間的到達把持動作が体幹制御に及ぼす影響―
涌野 広行安谷屋 晶子林 克樹小野山 薫坂井 伸朗村上 輝夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Ab1066

詳細
抄録
【はじめに、目的】 脳卒中患者の上肢と手の機能回復の要望は高い。我々は上肢の様々な空間での到達把持動作には、体幹と上肢の協調した機能が重要であると考えている。しかし、上肢と体幹の協調制御を伴ったロボット研究は極めて少ない。そこで我々は平成17年より九州大学大学院と協同で肩甲骨・体幹の制御を伴った上肢治療用ロボットの開発をおこない、到達把持動作時の体幹制御について本学会で報告してきた。今回は、垂直空間における到達把持動作と体幹制御の関連性についてモーター、力センサー、床反力計を設置したロボット装具を用い分析をおこなったので報告する。【方法】 対象は、本研究参加に同意した健常成人男性1名(年齢36歳)。測定は、自作した肩甲骨機構・体幹ロボット装具と殿部・足底に床反力計(Nintendo社)を設置した台に座り実施した。肩甲骨機構・体幹ロボット装具は肩甲骨運動、体幹運動(屈曲・伸展、回旋、側屈)、股関節運動(屈曲・伸展)が可能な構造で、各運動軸にサーボモーター(Maxon社およびYasukawa社)と力センサー(共和)を、上腕と肩甲骨機構に電子式ゴニオメーター(Biometrics社)を取り付けておこなった。これらをコンピューター(Interface社)により被験者の動きへの追従制御、重量免荷制御をおこない、到達把持動作時の各関節の運動角度を定量的に計測した。関節角度は装置装着での自然座位、左上肢下垂位を0°とした。目標物の配置は身体部位を基準とし、膝より前方22.5cmの垂直平面上で、縦軸は自己身体の中心軸(Center axis:以下CEN)、CENより左側へ25cmの軸(以下L25)、左側へ50cmの軸(以下L50)、右側へ25cmの軸(以下R25)とした。横軸は、肩峰の高さ104.5cm(以下SHO)を中心とし、SHOより上方20cm(以下U20)、下方35cm(以下D35)、下方55cm(以下D55)の計16箇所とした。運動課題は、目標物(直径7cmのボール)への到達把持動作とし、左上肢下垂位から目標物を把持するまでの動作をおこなった。目標物にはLEDライトを埋め込み、光刺激を合図に動作を開始し、動作中の関節角度、殿部・足底の床反力・COPの計測し、運動方向の違いが体幹運動に及ぼす影響を分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究目的と内容・リスク面を説明し同意を得た。リスク面は短時間の実施時間とし、モータートルクは健常者の筋力を大きく下回る値に設定。リスク回避は実験者の任意で停止が可能とした。なお本研究を実施には九州大学大学院の実験倫理委員会の承認を得た。【結果】 配置された16箇所全ての目標物への到達把持動作が可能であった。体幹側屈は高さによる違いは小さいものの、左右空間の違いが角度に及ぼす影響が大きかった(L50:-5.9°、L25:-2°、CEN:1.2°、R25:7.2°)。特にR25への到達把持、L50、L25のD35、D55への到達把持動作時の運動が大きかった。体幹回旋も側屈と類似しており左右空間の違いが影響を及ぼし、左側が軽度左側屈、右側に向かって右回旋の角度が大きくなった。特にR25への動作時に角度が大きかった(L50:-2.4°、L25:2°、CEN:6.8°、R25:17.2°)。体幹の屈曲・伸展は、上下空間の位置の違いが影響を及ぼした(U20が-4.7°、SHOが-0.6、D35が6.7°、D55が14.8°)。肩甲骨及び肩関節は上下空間の違いの影響が大きく、U20(肩甲骨29.2°、肩関節120.3°)で最も大きく、次いで、SHO、D55、D35の順であった。股関節の屈曲は上下空間においてはD55が19.8°、U20が15.2°と大きく、左右空間においてはR25が17°、L50が16.2°と大きかった。COPは到達把持動作と協調して前方へ移動したが、殿部でD55を除くCEN、L25のU20、L50のU20、足底でL25のD55、L50のD55が目標物とは反対側へ移動した。【考察】 体幹の側屈・回旋は左右空間、特に右側への到達把持動作において運動範囲が大きかったが、上下空間での違いはほとんどみられなかった。また、肩甲骨、肩関節、体幹屈曲・伸展は上下空間の違いにておいて運動範囲に影響があった。股関節の運動においては、上下・左右空間の両方の影響があると考えられる。今回、平面空間における目標物の位置の違いにより異なった体幹制御が必要性であることが示唆された。また、体幹運動に伴ったCOPの軌跡が確認できたが、目標物とは反対側へ移動することもありさらなる分析が必要である。今後は立体空間における研究も進めていきたい。【理学療法学研究としての意義】 肩甲骨、体幹と股関節の制御が可能な上肢機能回復のためのロボット開発は、世界に類を見ないものである。本ロボットは、肩甲骨・体幹の様々な運動制御に加え床反力の計測が同時に可能であり、全身の協調した運動を分析することが可能である。また、本研究のような能動的な運動制御の検証は装着型ロボットによって初めて検討できる試みであり、理学療法学的にも新たな知見を与えることが期待される。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top