抄録
【はじめに、目的】 大腿義足歩行における膝継手制御には、アライメント制御、立脚制御、随意制御があり、重要とされている。私たちは、第45回日本理学療法学術大会にて大腿切断者の断端の体性感覚が健側に比べ鋭敏であることを示し、膝継手制御に断端の体性感覚情報が活用されていると考えた。特にソケット内圧変化などを察知していると考えられるが、下肢切断者に対する体性感覚やソケット内圧変化についての報告は少ないのが現状である。そこで歩行時のソケット内圧変化、筋活動とともに、断端の体性感覚について調べ、膝継手制御との関係について検討した。【方法】 対象は28歳男性、片側大腿切断者1名(切断から14年経過、切断原因は骨肉腫、断端長11cm)。歩行時のソケット内圧変化、筋活動の計測では、対象者に適合させた計測用義足を作製し使用した。吸着式ソケット作製では、圧センサー(TEACひずみゲージTC-FSR 100N)を大腿前面(以下前面)、大腿後面(以下後面)に上部、下部の2ヶ所ずつ計4点に埋め込み、膝継手(LAPOC MO760)、足部(LAPOC J-FOOT)を組み立てた。次に筋電計の電極を患側大殿筋、中殿筋に取り付け、赤外線反射マーカを肩峰、大転子、膝継手、足部(2ヶ所)に取り付けた。筋電計(日本光電WEB-5000 600Hz)、三次元動作解析装置(アニマ社MA-6250 60Hz)を同期させ、任意の快適歩行を5回計測し、ソケット内圧(g)、筋活動(V)ともに歩行周期間で平均値を算出し代表値とした。歩行周期は患側のinitial contact(IC)、foot flat(FF)、mid stance(MS)、heel-off(HO)、push-off(PO)とした。体性感覚は振動覚と二点識別覚の検査を行った。振動覚では健側、患側の上前腸骨棘、坐骨結節の振動感知時間を3回計測し、検者との比率(%)を算出した。二点識別覚は圧センサー埋め込み部位と同部位で各3回計測し、それぞれ中央値を代表値とした。【倫理的配慮、説明と同意】 群馬大学大学院保健学研究科の臨床研究倫理審査委員会で承認を得て実施した。また本研究の主旨を書面にて対象者に説明し、同意書に署名を行った上で実施した。【結果】 ソケット内圧は、とくに後面・上部に圧がかかりやすく、後面・上部の圧はIC~FF168.37±94.69g、FF~MS593.38±339.35gであった。また他の部位においてもICからFF~MSにかけて増加しピークに達した。その後MS~POにかけて圧が減少する傾向がみられた。筋活動では、大殿筋IC~FF 0.351±0.486V、FF~MS0.526±0.575VとFF~MSにかけて増加し、ピークとなった。その後POにかけて活動が減少した。中殿筋では歩行周期間で大きな差はみられなかった。体性感覚検査の振動覚は、上前腸骨棘では健側、患側で差はみられなかった。坐骨結節では健側76.9%、患側100%であり患側の振動感知時間が長かった。二点識別覚は、前面では健側、患側間の差は大きくなく、上部と下部の差も小さかった。後面では、上部健側0.7cm、上部患側0.3cm。下部健側0.4cm、下部患側0.3cmであり、上部に比べ下部の二点識別覚閾値が低い傾向がみられた。また上部では健側に比べ患側の二点識別覚閾値が低い傾向がみられた。【考察】 ソケット内圧変化はFF~MSでピークとなり、さらに後面・上部が最も大きかった。また患側大殿筋の筋活動は、ソケット内圧変化と同様な変化を示した。立脚初期から中期にかけて大殿筋の活動が増加する要因として、立脚初期に股関節伸展モーメントが発生すること、さらにinitial contact直後の衝撃吸収に大腿四頭筋が活用できず、膝折れ制御のために股関節伸展が必要になることが考えられる。そのため随意制御を用いて断端をソケット後壁に押し付けていることから大腿後面の圧が高まったとともに、大殿筋の筋活動が増加したと考えられ、膝継手の安定性が得られるmid stanceまで活動したのではないかと考える。体性感覚では、坐骨結節の振動覚は、健側に比べ患側で23.1%増加しており、これは義足歩行時の荷重部が坐骨結節であることから健側に比べ振動覚閾値が低いと考えられ、また閾値が低いことにより坐骨への荷重量を検出していると考えられる。二点識別覚は、後面において患側の二点識別覚閾値が低い傾向がみられた。大腿部は歩行時常にソケットから圧が加わっており、感覚刺激が繰り返し入力されたことにより感覚機能が賦活されたものと考えられる。これらから大腿後面でソケット後壁への圧迫度合いを感知し、さらに坐骨結節で坐骨への荷重量を検出することで、膝継手制御を行っているのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 大腿義足歩行時の膝継手制御において、体性感覚情報が活用されていると考えられた。そのため切断術後の理学療法において、術直後から感覚入力を促すことも必要であると考える。またソケット内圧の評価が可能になれば、ソケットの形状の工夫やより快適な大腿義足歩行の獲得など、理学療法の発展の一助になると考える。