理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
視覚誘発事象関連電位(P300成分)に対する表情認知の影響
─青年期の男女差について─
浅海 靖恵田崎 秀一郎平野 功成平野 哲郎深川 真嵩福田 晋松下 卓矢森田 喜一郎
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p. Ab1094

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抄録
【はじめに】 情報処理過程の中で認知機能を反映すると考えられている事象関連電位(event-related potentials:ERPs)のP300成分は,精神生理学的研究の有用な客観的指標として多くの研究がなされている.感情すなわち情動という意思発動が認知機能に及ぼす影響は重大であると考えられるが,精神生理学的研究は少ない.今回われわれは,未婚の青年層を対象に視覚誘発P300成分に対する「泣き」「笑い」という表情画注視による影響を,男女差について比較検討したので報告する.【方法】 P300測定には日本光電NeuroFaxを使用した.事象関連電位は,視覚誘発のオドボール課題を用い,標的刺激(30%の出現確率)として,赤ん坊の「泣き」または「笑い」写真を,非標的刺激(70%の出現確率)として,赤ん坊の「中性」写真を用いた.すべての被験者に,「標的刺激に対してできるだけ早くボタンを押して,数えるように」「非標的刺激に対してできるだけリラックスして画面を眺めるように」指示した.「泣き」写真,「笑い」写真は,被験者ごと順序を変更した.脳波は,国際10-20法に基づき,両耳朶を基準電極として18チャンネルから記録し,P300成分は,Fz,Cz,Pz,Ozから最大振幅,潜時を解析した.P300振幅は,時間枠350-500 msの最大陽性電位とし,P300潜時は,P300最大振幅の時点とした.統計学的処理は,一元配置分散分析を用い,いずれも危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 青年期の男性11名(21.8±1.1歳),女性11名(21.6±1.1歳).年齢に有意差はなく,全員未婚である.本研究に先立ち,すべての被験者に本研究の趣旨を書面にて説明し同意を得て実施した.【結果】 1)P300振幅は「泣き」Cz,Pzにおいて「女性」が「男性」より,有意に増大していた(Cz:p=0.009,Pz:p=0.01).2)P300潜時は「泣き」Cz,Pz,Ozにおいて「女性」が「男性」がより有意に短縮していた(Cz:p=0.003,Pz:p=0.001,Oz:p=0.01).3)「女性」は,「泣き」が「笑い」よりP300振幅がPzで有意に増大し(Pz:p=0.04),P300潜時がCz,Pzで有意に短縮した(Cz:p=0.02,Pz:p=0.01).4)「男性」のP300振幅は表情間で差はなく,P300潜時は「笑い」が「泣き」より短縮した.【考察】 これまでにP300振幅は女性の方が大きいと報告されており,今回の結果においても女性は男性よりP300振幅が大きく,またP300潜時が短縮していた.このような差が生じた理由として,女性は男性より,頭蓋骨が薄いため電位が増強すること,女性の振幅が増大するという夏季に実施したこと,母性本能を発現させるという赤ん坊の顔写真を使用したことなどが考えられる.次に,「泣き」・「笑い」という表情刺激の相違では,これまでに健常者では,「笑い」に比べ「泣き」においてP300振幅が増大しP300潜時が短縮すること,「笑い」・「泣き」という表情刺激間で性差は認められないことが報告されている.今回の研究でも「女性」は,「泣き」が「笑い」よりP300振幅が有意に増大し,P300潜時が有意に短縮した.しかし「男性」では表情間で有意差は認められず,振幅においては,「笑い」の方が「泣き」より増大するという逆の結果になったこれまでに「泣き」「笑い」表情認知課題におけるERPs測定時に,帯状回・前頭葉・頭頂葉・側頭葉が有意に賦活することが報告されており,今回の相違の大きな要因として,女性の帯状回が男性より活発であることが関係していると考える.つまり帯状回は,記憶の抽出や協調感情,情感的情報の発見と識別に関与するため,他者への協調感情や過去において「泣き」という情動体験が豊富な女性は,赤ん坊の泣き顔により強くより早く反応したと思われる.では,子供を持つ父親ならどうなるのか.表情変化を間近で見ながら子供を育てることで,その経験が記憶として蓄積され,「赤ん坊の泣き顔」にも女性同様の反応を示すのか,非常に興味深いところである.今後さらに症例を増やし,刺激の種類や環境の変化が認知機能におよぼす影響を検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】 相貌や表情の識別は,我々が社会生活において周囲とのコミュニケーションを保つために重要な機能であり, P300を用いて表情認知に関する脳内情報処理機能を生理学的に検討することは,臨床の場面でも精神疾患や認知症などの高次脳機能疾患を中心に幅広く応用できると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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