理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
近赤外分光法での脳活動計測における血圧変動の影響
椿 淳裕古沢 アドリアネ明美小島 翔菅原 和広大西 秀明
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p. Ae0048

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抄録
【目的】 リハビリテーションの分野では,非侵襲的で時間分解能に優れた近赤外線分光法(NIRS)を用いた粗大運動時の脳活動を計測する研究が行われている.この方法は,近赤外線光に対する吸光度の違いによる酸素化ヘモグロビン(O2Hb)と脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化量によって脳活動を測定するものである.脳の神経活動をほぼリアルタイムに長時間の連続測定が可能であることから,脳卒中後遺症患者の歩行中の脳活動やリハビリテーション介入の効果について多くの報告がある.一方で,NIRSでは頭蓋外から照射された近赤外線光を頭皮上の受光部で検出するため,負荷する脳賦活刺激の種類によっては,心拍や呼吸及び血圧などの変化に伴う全身的な血流変化が刺激に同期して起こることが報告されている.安静時にはほぼ一定に保たれている心拍や血圧などは,運動時には,セントラルコマンドや動脈圧受容器反射あるいは活動筋からの反射調節により変動を来す.特に静的運動時には末梢血管抵抗の増加も加わり,変動は著しい.また息こらえのみによっても,自律神経を介した血圧変動が短時間で起こる.すなわち,運動中の脳活動の計測においては,これらの全身的な血行動態の変化が経頭蓋的に計測されたO2Hbの変化の大きさに影響を与えている可能性が考えられる.したがって,NIRSにおける脳の神経活動の計測を行う場合,血行動態の変化との関係を明らかにしておく必要があるが,十分に解明されてはいない.本研究の目的は,血圧の変動とNIRSによって計測される信号との関係を明らかにすることである.【方法】 対象は,神経学的疾患や心疾患を有さない健常成人7名(21.6±0.8歳)とした.課題動作は,自律神経の反射を介して短時間に血圧の変動を生じさせることのできる息こらえとし,20秒間実施した.連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems社)を左第III指に装着し,beat by beatにて平均血圧(MAP)を計測した.また前額部には表皮血流測定装置(OMEGAFLOW FLO-CI,OMEGAWAVE社)を装着し,前額部より頭皮血流(SBF)を計測した.脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,国際10-20法によるCzを基準として,送光プローブと受光プローブを配置し,2条件での測定を行った.[条件1]送光プローブと受光プローブを30mm間隔で配置し,全36チャネルで経時的にO2Hbを計測した.全チャネルの平均を算出し,ピアソンの相関係数によってMAPおよびSBFとの相関関係の強さを求めた.[条件2] 30mm間隔でプローブを配置した深部34チャネルに,15mm間隔でのプローブ配置により浅部の測定が可能とされる9チャネルを加え,測定を行った.深部34チャネルの平均(deepO2Hb),浅部9チャネルの平均(shallowO2Hb)を算出し,deepO2HbとshallowO2Hbとの差(diffO2Hb)を求めた.これらとMAPおよびSBFとの相関関係の強さをピアソンの相関係数によって求めた.いずれの条件においても,有意水準は5%とした.【説明と同意】 本研究は,新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号17157-100203).また対象者には本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.【結果】 条件1では,各測定項目間の相関関係において,MAPとO2Hbとの間に相関係数0.61~0.82の有意な正の相関関係を認めた(p<0.01).一方,SBFとO2Hb(相関係数0.14~0.88),SBFとMAP(相関係数-0.08~0.52)の相関関係には,被検者間のばらつきが大きかった.条件2では,MAPとdeepO2Hb,shallowO2Hb,diffO2Hbとの間の相関係数は,それぞれ0.64~0.88(p<0.01),0.64~0.89(p<0.01),0.45~0.67(p<0.01)であった.【考察】 運動時のNIRS信号には,血圧上昇や体温上昇による頭皮血流の増加が含まれている可能性がある.今回実施した息こらえは,体温上昇をもたらす課題ではなく,運動中の体温調節を目的とした頭皮血流の増加は生じない.この課題中のO2HbとMAPとの間の相関関係から,息こらえ課題中の血圧変動はNIRS信号に影響を及ぼすことが考えられた.MAPとの相関はdeepO2Hb よりもdiffO2Hbで弱く,shallowO2Hbを減じることで血圧変動をある程度除外した皮質活動を測定できる可能性が示された.【理学療法学研究としての意義】 理学療法実施中の脳活動を,NIRSを用いて明らかにしようとする場合,血圧変動が測定結果に影響している可能性が示された.本研究は,血圧変動の影響を受けないより純粋な脳活動の計測へと発展させるための基礎的な研究であり,脳活動も含めた理学療法手段の根拠を示す研究へと展開させていくことができる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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