抄録
【はじめに、目的】 Brain Machine Interface(以下BMI)は脳信号を用いて外部デバイスをコントロールしようとする技術であり、筋委縮性側索硬化症や高位頸髄損傷患者のQOLを向上させる技術として注目されている。BMIに使用される脳信号は侵襲的手法と非侵襲的手法により計測されており、侵襲的手法によって得られる脳信号は多くの情報量を含んでおり信号解読に有用である一方で、患者への開頭手術が必要となるためその負担は多大なものである。そこで今回、非侵襲的手法によって得られる脳信号を用いた非侵襲型BMIについて、リハビリテーションへの応用可能性を目指して研究を行った。【方法】 8名の健常被験者が本研究に参加した (男性4名,女性5名;年齢32.8±14.2).被験者には実験前にエディンバラ利き手テストを行い,すべての被験者が右利きであることを判定した.まず被験者に4秒間の固視点を提示し,その後,右上肢の握り,摘み,肘曲げの3種の運動イメージ内容を提示した.各1秒間のtiming cueを2回提示後,実行指示に合わせて前に提示された運動内容のイメージを被験者に実行させた.各運動イメージ内容はそれぞれ60回ずつランダムに提示した.運動イメージ中の被験者の脳磁界反応は160チャンネル全頭型脳磁計 (MEG vision NEO, 横河電気) を用いてシールドルーム内で計測した。被験者の運動イメージ内容を解読するために,本研究では未学習データに対し,高い汎化能力を持つ線形機械学習法の一つであるサポートベクターマシン (Support vector machine: SVM) を使用した。また、運動イメージ内容の解読のための特徴量には運動イメージ開始0-2000msの正規化した脳磁界波形を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に対し本研究の目的および実験を行うことで起こりうる結果について説明し,研究参加に対する同意を得て実験を行った.なお,本研究は大阪大学医学部付属病院の倫理審査委員会による承認を受けて行った.【結果】 8名の被験者のうち4名から有意に高い解読精度が得られた(p < 0.05, binomial test)。高い解読精度が得られた被験者と低い精度の被験者の運動イメージ時の脳律動変化の違いを調べるために各被験者についてbeamformer解析を行ったところ、前者ではβ帯域の事象関連脱同期 (event-related desynchronization; ERD) が運動野、運動前野および上頭頂小葉などで認められた。一方、後者においてもβ帯域のERDが運動野や上頭頂小葉認められたがその反応は高い解読精度が得られた患者よりも低かった。また、解読精度が低い被験者では運動野や運動前野で著明なhigh γ帯域の事象関連同期 (event-related synchronization; ERS) も認められた。さらに、各被験者で反応が得られた領域の結合性を確認するためにgranger causality analysisを行ったところ、高い解読精度が得られた被験者では運動野から運動前野や補足運動野への結合性が認められた一方で、解読精度が低かった被験者では上頭頂小葉や運動前野から運動野への投射が多く認められた。【考察】 運動イメージ内容の解読精度が高い被験者ではβ帯域ERDが運動野や運動前野で認められたことから、それらの領域を活動させることでより実運動に近い状態で運動イメージを行っていたと考えられた。一方で、解読精度が低い被験者は頭頂葉や運動前野においてhighγ帯域のERSが強く認められ、それらの領域から運動野や補足運動野などへの投射が幅広く認められた。頭頂葉は空間的なイメージに関連している領域であるといわれていことから、これらの被験者では運動イメージを空間的に行っていたものと考えられた。また、highγ帯域のERSは近年の脳研究から、脳機能を直接的に反映する反応であると言われており、本研究では解読精度が低い被験者の運動前野や運動野で強く認められたことから、これらの被験者ではより努力性に運動イメージを行うことで、運動前野や運動野が強く活動していたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 脳磁図を用いて個々人の運動イメージ内容を解読することによって、その解読精度から個々人の運動イメージ能力やイメージ方法を把握できる可能性が示された。これにより、今後、非侵襲的BMIによる患者の運動イメージ能力の評価や神経リハビリテーションの開発、あるいは侵襲型BMIの術前、術後リハビリテーションへの応用可能性が見出された。