理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
球回し課題における運動準備期のalpha波は運動技能の向上に関与する
─EEG研究─
中野 英樹大住 倫弘植田 耕造兒玉 隆之森岡 周
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キーワード: 運動学習, 運動技能, EEG
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p. Ae0052

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抄録
【はじめに、目的】 日常におけるヒトの運動の多くは,予測に基づいて実行されており,より良い運動を実行するためには運動前の準備状態を適切に構築することが重要であると考える.運動前脳波活動がパフォーマンスに及ぼす影響を検討した研究として,エキスパート射手のベストショット前に後頭葉のalpha powerは有意に増加し(Loze, 2001),エキスパートゴルファーの成功パット前に運動感覚領域のhigh-frequency alpha ERD(event-related desynchronization)は有意に増加することが報告されている(Babiloni, 2008).これらの報告は,熟練者における運動前alpha波の活動はパフォーマンスの結果に重要であることを明らかにしている.しかし,運動前alpha波が運動技能の向上に及ぼす影響は明らかにされていない.本研究では,球回し課題における運動前alpha波が運動技能の向上に及ぼす影響ついて検討した.【方法】 対象は,本研究に参加の同意を得た健常成人20名(男性16名,女性4名,年齢21.3±2.3歳)とした.全ての対象者は,Edinburgh Inventoryにて右利きであった.対象者は,直径45mm,重さ50gの木球2個を右手で時計回りに回す球回し課題を実施した.なお,全ての対象者は本運動課題を過去に経験したことはなかった.対象者は背もたれのある椅子に座り,木球2個を右手に把持した後に,対象者の前方に設置されているPCディスプレイを注視した.PCディスプレイ上に「安静」が表示された時,対象者はリラックスを行った(安静;5秒).PCディスプレイ上に球回し課題の動画が表示された時,対象者はその運動観察を行った(運動観察;30秒).PCディスプレイ上に「準備」が表示された時,対象者は運動実行の準備を行った(運動準備;5秒).PCディスプレイ上に「開始」が表示された時,対象者は球回し課題を行った(運動実行;30秒).これらを1試行とし,計5試行実施した.1施行目と5施行目の球回し課題の回転数より運動技能の向上率を算出した.その結果から上位群10名と下位群10名に割り付けし,安静,運動観察および運動準備の脳波の比較を行った.脳波の測定には,高機能デジタル脳波計Active Two System(Biosemi社製)を用い,128ch,サンプリング周波数2048Hzで記録した.脳波の解析にはEMSE Suite(Source Signal Imaging社製)を用いた.また,上位群と下位群の安静,運動観察および運動準備のデータをeLORETA(exact low resolution brain electromagnetic tomography)解析に組み込まれているeLORETA statistics analysis(log of F-ratio)を用いて比較分析し,high-frequency alphaの発生源同定を行った.有意水準は全て5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した.全ての対象者に対して本研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護および参加の拒否と撤回について十分に説明を行った後に参加合意に対して自筆による署名を得た.なお,本研究は当院の研究倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 上位群は下位群と比較して,球回し課題の回転数の有意な増加を認めた(p<0.01).また上位群では,運動準備期において右運動前野,右補足運動野,右一次運動野,右一次体性感覚野,右縁上回のhigh-frequency alpha ERDの有意な増加を認めた(p<0.01).一方,下位群では有意差を認めなかった.【考察】 上位群の運動準備期において,右運動感覚領域と右頭頂領域のhigh-frequency alpha ERDの有意な増加を認めた結果は,運動準備期の際に上位群は視覚的注意機能を動員させていたことが考えられた.これらの領域の運動前high-frequency alpha ERDの活動は,熟練者の視覚的運動のパフォーマンス結果に関与することが報告されている(Babiloni, 2008, 2011; Del Pericio, 2007, 2011).本研究結果より,右運動感覚領域と右頭頂領域の運動前high-frequency alpha ERDの活動は,視覚的運動の技能向上にも関与することが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 理学療法では,運動技能の向上を目的として運動実行中に着目してアプローチすることが多い.本研究結果より,運動技能の向上には運動実行中のみならず運動前の準備状態にも着目してアプローチすることの重要性が示唆された.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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