理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
歩行時筋活動に対する下肢装具の効果についての筋電図学的検証
─回復期脳卒中片麻痺患者3症例における検討─
戸塚 寛之宮澤 宏文上野 貴大強瀬 敏正佐々木 和人荻野 雅史鈴木 英二田中 直
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p. Bb0767

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抄録
【はじめに、目的】 脳卒中片麻痺患者に対する装具療法は、脳卒中ガイドライン2009において推奨グレードAとされており、その重要性や有効性は理解されている。近年は、代償的なADL装具に留まらず、Gait Solution Designなど、動的制御を目的に治療用下肢装具が用いられるようになっている。しかし、実際、治療用下肢装具の装着により、目的とした筋活動が促されているか、客観的な筋活動データを示す先行研究は乏しい状態である。そこで、当院において脳卒中片麻痺患者に対し、プラスチック短下肢装具(以下PAFO)、長下肢装具(以下KAFO)を治療用下肢装具として処方された3症例の歩行時筋活動について、症例ごとに検討し、下肢装具の効果について筋電図学的に検証することを目的とした。【方法】 症例は、発症から6ヶ月以内の当院回復期リハ病棟に入院している患者3名とした。症例1は73歳、男性。脳出血、右片麻痺。Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)下肢2。基本動作は軽~中等度介助。歩行はSide cane使用しKAFOにて軽介助。症例2は77歳、女性。脳梗塞、右片麻痺。BRS下肢4。基本動作は修正自立。歩行はT字杖使用しPAFOにて監視。症例3は76歳、女性。脳梗塞、右片麻痺。BRS下肢4。基本動作は監視。歩行はT字杖使用しPAFOにて監視。症例ごとの設定下で、快適速度による歩行を行い、歩行時筋活動を記録し、筋活動パターンと筋活動量を元に比較検討した。筋活動パターンと筋活動量データは、歩行が安定した4歩行周期分とした。筋活動の記録にはNoraxon社製、表面筋電図測定装置MYOSYSTEM 1400を用いた。被験筋は各症例の大殿筋、大腿二頭筋、腓腹筋(外側頭)、外側広筋、前脛骨筋の5筋とした。歩行時の設定は、症例1はSide caneを使用し、KAFOの膝継手固定と遊動の2設定で、主に大殿筋活動に着目し比較した。症例2、3はT字杖を使用し、裸足とPAFOの2設定で比較し、膝、股関節周囲筋への影響について検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会によって承認を得ている。対象またはその家族に対して本研究の目的及び内容を説明し、研究参加への同意を得た。【結果】 症例1では大殿筋において、KAFO膝継手固定では、初期接地から立脚中期にかけて活動する一定の筋活動パターンを示しているのに対し、遊動では筋活動時期がまばらで、筋活動量も低い値であった。症例2では、外側広筋は、裸足では立脚期全般にわたって筋活動は認めるも、その活動のタイミングは統一的でなかった。PAFOでは遊脚後期から立脚中期に活動するパターンを示し、筋活動量は裸足と比べ大きかった。大腿二頭筋は、裸足での筋活動量は低く、かつ筋活動パターンは一定でなかったが、PAFOでは遊脚後期から筋活動が開始し、立脚後期まで持続的に活動するパターンを示した。大殿筋は、裸足では筋活動時期はまばらで、かつ筋活動量は低い値を示した。PAFOでは立脚初期から立脚中期で活動するパターンを示し、かつ活動量は高い値を示した。症例3では外側広筋は、裸足での筋活動パターンと筋活動量はまばらであったが、PAFOでの筋活動は、遊脚後期から立脚後期まで活動する一定のパターンを示し、その活動量も裸足と比較し高い値であった。【考察】 一般的にはKAFOを治療用装具として用いる場合、膝折れを防ぐことは言うまでもないが、頻回の歩行練習によって、股関節及び体幹の支持性向上に対するアプローチの重要な手段として用いることが多い。症例1の結果において、KAFOの膝継手固定で大殿筋の収縮が認められたことは、上記の考えの妥当性を筋活動の側面から裏付ける結果であるといえる。股関節に対しアプローチしたい場合には、膝の支持性が向上したとしても、安易にKAFOからAFOへの変更は急がないほうが良いかもしれない。PAFOを治療用装具として用いる場合、足関節の固定や膝のコントロールに対して用いることが多い。症例2、3の結果からは、PAFOが足関節の固定としての作用だけでなく、足関節を制動及び制御することで、外側広筋や大腿二頭筋の筋活動につながり、膝のコントロールに影響を与えていることが確認できた。これは、動的制御を目的にした治療用装具として妥当であったことを裏付ける結果であるといえる。下肢装具を使用することで得られる下肢のアライメントの改善は、必要な筋活動を伴った結果であることが示せ、装具の有効性を再確認できたと考える。【理学療法学研究としての意義】 脳卒中片麻痺患者に下肢装具を用いることで、麻痺側下肢の筋収縮が促されているという客観的なデータを確認できたことが、今回の研究として意義があったと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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