理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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脳卒中片麻痺患者における脚clearance戦略についての一考察
田中 和哉大平 功路廣江 圭史山村 俊一
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p. Bb1193

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抄録
【はじめに、目的】 脳卒中片麻痺患者(以下片麻痺)の治療を行う上で、歩行時の脚clearance(以下clearance)の低下をきたす症例をよく経験する。clearanceに関する研究に関しては、背屈機能や膝関節屈曲などの機能面に依存する文献を多く目にする。しかし、実際の臨床において下肢機能が良くても足を引きずる症例は多く、またその逆の症例も多く眼にする。その際、非麻痺側機能的脚延長(以下脚延長)を麻痺側骨盤挙上で補償することや麻痺側機能的脚短縮(以下脚短縮)を麻痺側の骨盤後方回旋制動により下肢屈曲を促すことで補償するなど、機能的脚長を再建することでclearanceの変化を認める症例を度々経験する。本研究では、片麻痺において機能的脚長とpre-swingでの肩甲帯・骨盤帯のアライメントの各パラメータとの関係性を解析し、検討した。【方法】 対象は当院入院中の片麻痺6名(男性6名、平均年齢69.8±13.8歳、身長163.0±3.1cm、体重60.4±6.6kg)とした。歩行自立度は監視4名、自立2名で、下肢Brunnstrom stage(以下B/S)はIIIが1名、IVが2名、Vが3名であった。測定には3次元動作解析システムVICON370(OXFORD METRICS社製)を用い、サンプリング周波数60Hzの赤外線カメラ6台で計測した。左右の肩峰、上前腸骨棘(以下ASIS)、大転子、膝関節裂隙、外果、第5中足骨底、及び第7胸椎(以下TH7)、剣状突起部(以下STAN)に計14マーカを貼付し、自由歩行6歩行周期分を計測した。pre-swing時の肩峰・骨盤の側方傾斜角・前後回旋角、体幹側屈・回旋、股関節屈曲・伸展、膝関節屈曲・伸展、足関節底屈・背屈、及び両ASISの中点からのTH7・STANの左右偏移、歩行速度を算出した。上半身アライメントの指標は、前額面上にて左右のASIS、肩峰からなる4点を結んだ四辺形の形状とした。脚延長の指標は、麻痺側のASISの床からの高さとし、脚短縮の指標として下肢関節屈曲角度を用いた。統計学的解析には、各被験者ごとに1)脚延長と骨盤・肩峰の角度、TH7・STANの偏移、2)脚短縮と骨盤・肩峰の角度、TH7・STANの偏移との相関をPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。また、上半身アライメントと機能的脚長に関しても、比較検討を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究内容を十分に説明し、書面にて本研究の趣旨に同意を得た。【結果】 脚延長と麻痺側骨盤挙上は、6例中5例で正の相関関係(r=0.74~0.85、p<0.05)が認められた。その内B/SIII・IVの3例においては、脚延長と麻痺側骨盤・肩甲帯の後方回旋に正の相関関係(r=0.74~0.92、p<0.05)が認められた。歩行速度が遅い3例においては、脚延長とTH7の非麻痺側への偏移量に正の相関関係(r=0.81~0.94、p<0.05)がみられた。麻痺側膝関節屈曲角度と麻痺側骨盤後方回旋は、6例中3例(全例がB/SV)で負の相関関係(r=0.79~0.95、p<0.05)が認められた。脚延長と麻痺側膝関節屈曲角度には相関関係は認められなかった。STANの左右偏移や体幹側屈・回旋と脚延長・麻痺側膝関節屈曲角度には一定の相関関係は認められなかった。また、上半身アライメントの指標である四辺形の形状や麻痺側股関節・足関節と機能的脚長との関連は見られなかった。【考察】 片麻痺の理学療法展開の上で、clearanceをいかに確保するかは重要な一因子である。clearanceを確保するための力学的課題として、機能的脚長差を生み出すこと、非麻痺側への十分な重心移動量を確保することで麻痺側下肢を離床させる必要がある。本研究において、片麻痺では脚延長は麻痺側骨盤挙上と強く相関していることが示唆された。特に、麻痺の程度が強いB/SIII・IVの例では麻痺側骨盤後方回旋が伴う脚延長、歩行速度の遅い例では上半身重心の非麻痺側偏移を伴う脚延長によりclearanceを確保していると考えられる。骨盤挙上による脚延長と体幹側屈・回旋や剣状突起の偏移に一定の関連が得られなかったことに関しては、体幹機能の影響が働いたと考えられる。体幹機能の差異により、上半身アライメントを台形状や平行四辺形状に変化させ、各々が対応した為と考えられる。麻痺が比較的軽度な例においては、pre-swing時に膝関節屈曲をはじめとする脚短縮により、clearanceを確保していると考えられる。脚延長機構と脚短縮機構はclearanceを確保する際に、相互作用を持つと考えられたが、相関は見られなかった。片麻痺においては麻痺の程度によりclearanceを確保するため各々の戦略を用いている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 麻痺の程度や歩行速度の違いにより、clearance戦略や上半身アライメントが変化を与えるといった一定の知見を得た。身体機能の評価だけではなく、機能的脚長といった視点からclearanceを解釈することで、臨床での評価・治療の一助となると思われる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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