理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
病態失認における自己意識性の障害要素についての修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析
平谷 尚大沖田 学
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キーワード: 病態失認, 自己意識, 気づき
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p. Bb1411

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抄録
【はじめに、目的】 自己意識とは,自身の心的あるいは身体的状態を省みる能力のことであり.近年,自己意識の右半球優位仮説(Keenan,2003:Feinbergら,2005)が提唱され,病態失認との関係が注目されている.そこで今回,病態失認を呈した3症例を対象に,身体をどのように意識し,どのように捉えているのかを調査するために,身体について語る言語を聴取し,その内容を質的に分析した.本研究の目的は,病態失認を自己意識の障害という視点から捉え,病態失認における自己意識の障害要素を明らかにすることである.【方法】 対象者は,右半球損傷を呈し,病態失認の評価法(Feinberg,2000)において病態失認を認めた3症例(平均年齢:68.33±14.57歳 病態失認の評価法:5.33±4.16点 MMSE:15±6.56点 Br.stage:上肢2-2名,上肢3-1名 下肢2-2名,下肢4-1名 感覚機能:中等度鈍麻2名,重度鈍麻1名)である.対象者に対して,まず,「身体をどのように感じているか」など,身体を意識させる質問項目に沿って半構造化面接を実施した.次に,両手を使用させた紐結び課題を実施し, 課題前後に「実際に行ってみるとどのようになると思うか(予測)」「実際に行ってみてどのように思ったか(結果)」などの半構造化面接を実施した.面接内容はICレコーダーにて録音し文字変換した.面接内容の分析には,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用い,得られた言語データから概念を生成し,概念間の関係性からカテゴリーを形成した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対して,事前に本研究の目的・方法を十分に説明し,同意のもと承諾書に署名を頂いた.【結果】 病態失認における自己意識の障害要素について分析した結果抽出できた9つの『概念』から,その類似性により【カテゴリー】を形成した.『障害認識のない作話』『三人称的身体意識』から【身体の所有感覚・運動の主体感覚の欠落】,『障害認識のある作話』『行為の予測結果の誤り』から【身体の所有感覚の獲得】,『身体に対する嫌悪感』『精神的問題により動かない身体』から【予測機構の混乱】,『運動後に出現する気づき』から【予測内容の実践】,『正しい運動結果の予測』『健側での情報構築の適正化』から【予測機構の適正化】の5つのカテゴリーが形成された. 【考察】 抽出された5つのカテゴリーは,病態失認における自己意識の障害要素の一端を表していると考える.第一に,【身体の所有感覚・運動の主体感覚の欠落】は,様々な情報統合により生成される身体の所有感覚及び,身体の所有感覚に注意を焦点化する意図的注意や運動の予測機構が障害され,運動の主体感覚が失われた状態である.宮本(2009)は,自己意識が生じるためには頭頂葉における脳の身体表象だけでは不十分であり,前頭葉の運動関連領野からの意識の志向性がトップダウン的に生じる必要があると述べている.つまり患者は,身体の所有感覚及び運動の主体感覚の両方が欠落しているため,麻痺した左身体を自覚できない状態にある.第二に,【身体の所有感覚の獲得】は,左身体の麻痺に対する部分的な気づきが生じているも,運動の主体感覚の欠落があるために,主体感覚を失った身体を過大評価している状態である.第三に,【予測機構の混乱】は,知覚予測と実際の知覚情報との比較照合において生じる乖離を違和感として感じ,その違和感をネガティブな印象として捉えている状態である.第四に,【予測内容の実践】は,知覚予測と実際の知覚情報との比較照合において生じる乖離に対し,能動的に知覚予測の修正を行う状態である.以上のように,【身体の所有感覚・運動の主体感覚の欠落】した患者は,【身体の所有感覚の獲得】の過程において脳の身体表象を形成し,身体の所有感覚を獲得する.そして同時的に,身体の所有感覚を基盤にした【予測機構の混乱】【予測内容の実践】など予測機構の実践・修正過程において,知覚予測と実際の知覚情報との比較照合の結果生じた乖離への気づきの経験が蓄積され,【予測機構の適正化】が図られることで, 運動の主体感覚を取り戻し,自身の心的あるいは身体的状態を省みる能力を獲得していくという障害要素の段階が示された.【理学療法学研究としての意義】 今回の結果から,病態失認に特異的な現象を自己意識の障害という視点から解釈し,自己意識の障害要素において患者がどのレベルでの気づきを経験しているのかを評価することの重要性が示唆された.本研究により考えられる今後の治療方略としては,脳における身体の所有感覚及び運動の主体感覚を獲得させていく中で,言語的介入を通して知覚経験を意識化させ,患者に自己意識の障害要素に応じた気づきを促すことが効果的である可能性が示唆された.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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