抄録
【はじめに、目的】 近年、核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging:以下MRI)の撮像方法の一つである拡散強調画像を利用した拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging:以下DTI)の発達によって、大脳白質線維の可視化ができるようになっており、臨床においても実用されるようになった。河面らは脳出血患者の運動機能の予後予測に皮質脊髄路のDTI解析が有用であると報告しているが、まだ報告が少ないのが現状である。今回、我々は当院回復期病棟に入院した脳血管障害患者において、DTIを用いて皮質脊髄路の損傷程度を評価し、退院時の日常生活自立度と歩行能力との相関を調べた。【方法】 回復期リハビリテーション病棟対象として当院に入院中の患者で、発症後3カ月以降にMRIを撮像した脳血管障害患者9名(男性5名 女性4名 平均年齢59.6±16.3歳)を対象とした。3.0TのMRI装置(GE社製MR Signa Excite HDXt3.0T)にてDTIを撮像し、内包後脚と大脳脚でのfractional anisotropy(以下FA)値を患側と健常側で測定し、健常側に対する患側のFA値の比(以下FA比)を算出した。また、Functoolを使用してDTIから皮質脊髄路のtractographyを解析し、皮質脊髄路の残存の程度を視覚的に評価した。退院時の日常生活自立度の評価にはFunctional Independence Measure(以下FIM)の運動項目合計点、認知項目合計点、総合点を用いた。退院時歩行能力の評価にはFunctional Ambulation Classification(FAC)を用いた。統計学的解析には、FA比とFIMおよびFACの関連をスピアマンの順位相関係数の検定にて分析し、統計学的有意水準を5%に設定した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の対象に対して、事前に書面にて説明と同意を得たうえで、研究を行った。【結果】 FA比とFIMおよびFACとの関連では、大脳脚FA比とFIM認知項目合計点(ρ= 0.902、p<0.001)、大脳脚FA比とFIM総合点(ρ= 0.795、p<0.05)、大脳脚FA比とFAC(ρ= 0.697、p<0.05)、内包後脚FA比とFIM認知項目合計点(ρ= 0.741、p<0.05)間、内包後脚FA比とFIM総合点(ρ=0.770、p<0.05)の間にそれぞれ有意な相関が認められた。大脳脚FA比とFIM運動項目合計、内包後脚FA比とFIM運動項目合計およびFACの間には有意な相関は認められなかった。また、tractographyにて視覚的に皮質脊髄路が健常側と同程度残存している症例では歩行能力、FIM共に高い傾向にあり、反対に、視覚的に皮質脊髄路がほぼ確認できない症例では低い傾向にあった。【考察】 今回の結果から、大脳脚FA比とFIM総合点、歩行能力の間にそれぞれ有意な相関を認め、これは大脳脚FA比が日常生活自立度と歩行能力の予後予測の指標の一つとなり得ると考えられる。内包後脚FA比と歩行能力との間に相関は認められなかったものの、tractographyで視覚的に皮質脊髄路が明らかに残存している症例では歩行能力、FIM共に高い傾向にあった。tractographyの解析に際しては、関心領域(Region of Interest:ROI)の設定時に操作者のバイアスが存在する可能性があり、評価の妥当性と信頼性が十分保たれているか議論されているが、運動能力の予後を予測する上で参考に用いる意義はあるものと思われた。【理学療法学研究としての意義】 近年、脳白質線維の評価法として注目されているDTIを用いてFA比を算出することで、日常生活自立度や歩行能力との間に一定の関連性を示すことができた。皮質脊髄路をFA比により定量的評価、tractographyにより定性的評価することで、根拠に基づく理学療法を展開できる可能性が示唆された。