理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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特発性正常圧水頭症に対し髄液シャント術を施行した症例におけるCS-30の変化
古川 博章石川 正恒山崎 岳志
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p. Bb1414

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抄録
【はじめに、目的】 特発性正常圧水頭症(以下、iNPH)は、脳血管障害などの先行疾患がなく、髄液循環障害に起因する病態であり、髄液シャント術において症状の改善を認める疾患である。診断には歩行評価が含まれており、Time Up and Go test(以下、TUG-t)が用いられている。我々の先行研究において、TUG-tは起立、方向転換、着座の複数要素で構成されており歩行能力の変化を捉えるには複雑である可能性が考えられた。また、iNPHに対し起立・着座など歩行以外の要素で検討した報告は少ない。そこで、今回は起立動作に着目し髄液シャント術施行前後での変化を調査した。【方法】 対象はiNPHと診断され、当院にて髄液シャント術を施行した男性4名(平均年齢72.0±2.5歳)。起立の評価には30秒椅子立ち上がりテスト(以下、CS-30)を採用し、髄液シャント術前と髄液シャント術後に測定し比較した。CS-30は中谷らの方法を参考とし、高さ約40cmの椅子を用いた。被験者は両脚を肩幅程度に広げて座り、胸の前で腕を組み、膝関節を90-110°程度の屈曲位、足関節0°-10°程度の背屈位、体幹正中位の状態を開始肢位とした。開始の合図とともに股関節と膝関節が完全に伸展する直立姿勢をとらせ、開始肢位に戻るよう指示した。テストは30秒間起立・着座を反復させ、その回数を記録した。立ち上がり途中で30秒に達した場合はカウントしないこととした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言および個人情報保護法の趣旨に則り、対象者またはその家族に本研究の目的を十分に説明し同意を得た。【結果】 髄液シャント術後評価日は11.0±3.7日であった。CS-30の結果(髄液シャント術前/髄液シャント術後)は、平均5.0±3.7/9.3±1.9回であった。被験者4名の結果は症例A:6/8回、症例B:0/8回、症例C:5/9回、症例D:9/12回と全症例において改善が認められた。【考察】 起立動作を客観的な方法で評価するには、重心動揺計や三次元動作解析装置などが必要であるが、実際の現場においては困難である。一方でCS-30は簡便な評価方法で客観的な指標であることから臨床において評価しやすいとの理由から今回の調査に用いた。今回の結果では全症例において髄液シャント術後にCS-30が改善した。iNPHにおける脳血流に関する先行研究において、広範な血流低下、特に前頭葉、側頭葉の皮質および皮質下白質の血流低下が認められ、髄液シャント術後血流量が増加することが報告されている。また前頭葉に関する報告として、補足運動野などの運動野前域では、運動のプログラミングが行われており、以前に経験した運動性活動(運動性エングラム)が蓄えられ、この領域の障害により動作の巧緻性が低下するとされている。また、大脳基底核は運動の開始と促進作用があり、運動の遂行が円滑に行われるよう調整する働きを持つ。以上の事から、本症例における起立能力が改善した要因の一つとして脳機能に着目すると、髄液シャント術による脳血流量の増加により運動野前域機能が改善し起立動作の巧緻性が改善したこと、または大脳基底核の機能改善により起立動作が円滑に遂行されることでCS-30が改善した可能性が考えられた。起立能力には、筋力や関節可動域やバランス、運動学習など他の要因も多く考えられる。今後はそれらの要素も検討していき、CS-30が改善した原因を調査していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 正常圧水頭症の診断にはTUG-tが用いられているが、その有用性について根拠は未だ十分ではない。そのため、陽性・陰性例の判定には十分であるが、偽陽性・偽陰性の判定については不十分な点があると考えられる。今回のようなCS-30により起立動作を評価し、髄液シャント術での改善が認められるのであれば、正常圧水頭症の診断の一つの評価法となりうる可能性が示唆される。今後は症例数を増やした上での検討や、髄液排除試験前後での比較などが検討課題である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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