理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
Modified Ashworth Scaleと腓腹筋筋腱複合体の力学的な性質の関連について
―超音波診断装置を用いた検討―
中村 雅俊大畑 光司澁田 紗央理泉 圭輔市橋 則明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Bb1425

詳細
抄録
【はじめに、目的】 臨床的に,脳卒中や頭部外傷による脳損傷後片麻痺者(以下,片麻痺者)の下腿三頭筋は硬く,伸びにくいことを多く経験する.この原因としては伸張反射の亢進による痙縮などの神経学的な筋緊張の亢進が関与していると考えられてきた.しかし近年では,健常者や非麻痺側と比較して麻痺側では筋束長が短縮し,それに伴ってアキレス腱の長さが延長していると報告されており,筋腱複合体(Muscle Tendon Unit:以下MTU)の力学的な性質に変化が生じている可能性が示されている.我々は他動的背屈中のMTUの力学的な性質を調査した結果,麻痺側では非麻痺側よりもMTU全体や筋の柔軟性が低下していることを報告した(第46回日本理学療法学術大会).一般的な筋緊張の評価指標であるModified Ashworth Scale(以後MAS)は他動的に関節を動かした時の抵抗感により筋緊張の程度を評価している.先行研究において,MASとH反射のような神経学的な性質との関連が少ないことが報告されており,このことから筋の粘弾性などの力学的な性質との関連が高いことが推察される. しかし,MASとMTUの力学的な性質との関連を検討した報告は見当たらない.本研究の目的は,片麻痺者においてMASが腓腹筋MTUの力学的な性質と関連しているかどうかを明らかにすることである。【方法】 対象は地域在住の片麻痺者26名(男性17名,女性9名,下肢Brunstrom stageIIが3名,IIIが11名,IVが3名,VIが9名,平均年齢54.1±14.4歳,平均身長165.4±8.5cm,平均体重63.1±11.4kg)とし,対象筋は麻痺側の内側腓腹筋とした.MASの評価は十分に経験のある1名の理学療法士により測定を行った.腹臥位,もしくは座位にて膝完全伸展位にし,足関節を徒手的に背屈させていき,その時に底屈方向に生じる受動的トルクを徒手筋力計(アニマ株式会社製μ-tas F-1)を用いて測定した.解析には安静位と最大背屈角度における受動的トルクを用い,安静位から最大背屈角度までの受動的トルクの変化量を角度で除した値をMTUのスティフネスと定義した.MTUのスティフネスはMTU全体の硬さを表す指標で,値が小さいほど柔軟性が高いことを意味する.なお,最大背屈角度は対象者が痛みを訴えずに伸張感を感じ,痙縮や防御性の筋収縮が生じていない角度と定義した.また受動トルクの測定と同時に超音波診断装置(GE横河メディカル社製LOGIQe)を用いて腓腹筋の筋腱移行部 (Muscle Tendon Junction:以下MTJ)を同定し,安静位を基準に最大背屈角度の時のMTJの位置が変化した距離をMTJの移動量と定義した.なお,MTJの移動量は筋の伸びやすさを示しており,値が大きいほど柔軟性が高いことを意味する.他動的背屈動作中には伸張反射や痛みによる筋収縮の有無は筋電図(Noraxon社製テレマイオ2400)を用い,外側腓腹筋とヒラメ筋,および前脛骨筋の筋活動を確認しながら測定を行った.統計学的処理は,MASの値により4群に群分けを行い,各群間における最大背屈角度とMTUのスティフネス,MTJの移動量の比較をMann-Whitney検定を用い,Holm補正を行った.有意水準は5%未満で行い,全ての結果は平均値±標準誤差で示した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を説明し,書面にて研究に参加することの同意を得た.なお,本研究は本学の倫理委員会の承認を得た.【結果】 本研究において対象者のMASは1が8名,1+が8名,2が5名,3が5名であった.統計分析の結果,最大背屈角度は各群間に有意な差は認められなかった(1:6.3±0.8°,1+:6.9±0.9°,2:6.0±1.0°,3:7.0±1.2°).MTUのスティフネスは1や1+と比較して2,3が有意に高値を示し,2と比較して3が有意に高値を示した(1:2.0±0.4Nm/deg,1+:2.3±0.6Nm/deg,2:6.1±0.8Nm/deg,3:9.5±1.0Nm/deg).またMTJの移動量も1や1+と比較して2,3が有意に低値を示し,2と比較して3が有意に低値を示した(1:1.99±0.17cm,1+:1.96±0.11cm,2:1.57±0.10cm,3:1.34±0.30cm).なお,全ての測定において痙縮などによる筋収縮は認められなかった.【考察】 本研究の結果,全ての群間における最大背屈角度に有意な差は認められなかったが,1や1+と比較して2や3はMTUの柔軟性は低く,筋が伸びにくいことが明らかになった.さらに2と比較して3ではよりMTUの柔軟性が低く,筋が伸びにくいことが明らかになった.なお,全ての測定中に痙縮などの筋収縮は認められなかった.これらの結果から,徒手的に抵抗を感じ取るMASの評価は痙縮などの神経学的な評価ではなくMTUのスティフネスや筋の伸びやすさなどのMTUの力学的な性質を反映していることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 脳損傷後片麻痺者において筋緊張の評価指標であるMASはMTUの力学的な性質と関連していることが示唆された.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top