理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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筋萎縮性側索硬化症患者に対する自転車エルゴメータ運動によるストレス変化とその緩和手段
北野 晃祐藤川 太一甲斐 悟菊池 仁志
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p. Bb1430

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抄録
【目的】 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は原因不明であり、運動ニューロンの酸化ストレスが一因として長年検討されている。しかし、運動療法によるストレス変化の報告は確認されない。我々は、前回大会においてALSに対する自転車エルゴメータ(エルゴ)運動の呼吸機能維持効果を報告している。また、通常、ストレスを軽減させる手段として深呼吸運動が用いられるが、ALS患者は、深呼吸運動に努力を要する場合がある。今回は、ALS患者に対するエルゴ運動によるストレス変化と、運動終了後のストレス緩和手段について唾液アミラーゼを用いて検討する。【方法】 対象は、ALS患者9名(65.55±9.0歳:男性4名 女性5名)とした。エルゴ(Cateye EC-3600)運動は、エルゴ上安静座位を5分間保持した後に、10~13分間呼吸苦が無い範囲で実施した。エルゴ運動後のストレス緩和手段は、深呼吸運動10回と後方からの用手的呼吸介助(呼吸介助)10回の2つを設定した。2つの手段は、2日以上の期間を空けてランダムに実施し、呼吸介助は1名の理学療法士が実施した。エルゴ運動によるストレス変化を確認する為に、安静座位5分後とエルゴ運動開始8分後、エルゴ運動終了直後に各手段施行後に唾液アミラーゼをNIPRO社製モニター(CM‐21)により測定した。飲食物の影響を避けるために、検査前2時間は飲食を禁止した。さらに、検査開始前に真水によりうがいを3回実施した。球麻痺患者には、歯科医師か言語聴覚士により真水を用いて口腔ケアを行いた。統計学的分析時は、安静座位後の唾液アミラーゼ値を1とし、その変化率を用いた。エルゴ運動中はパルスオキシメータ(スター・プロダクト社:リストックス)を右中指に装着し、経皮的酸素飽和度(SpO2)と脈拍を測定した。統計学的処理にはDr.SPSS II for Windowsを用い、一元配置分散分析後に多重比較検定を行った。有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、紙面を用いて研究概要を十分に説明し同意を得た。調査は当院倫理委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言を遵守し、個人が特定されることがないよう注意した。また、研究への同意を撤回する権利を有することを説明した。【結果】 深呼吸運動を実施した際は、唾液アミラーゼ変化率が8分後1.2±0.5から深呼吸後1.7±0.6に推移し、安静時に比べ深呼吸後に有意な増加(p<0.05)を認めた。SpO2は安静時95.4±1.1%、エルゴ運動8分後94.6±1.3%、深呼吸後96.7±1.2%と推移し、エルゴ運動8分後から深呼吸後に有意に増加(p<0.05)した。脈拍は同順で71.2±10.5拍、84.4±10.5拍、75.8±10.2拍に推移した。呼吸介助を実施した際は、唾液アミラーゼ変化率が8分後1.1±0.4から呼吸介助後0.8±0.5に、SpO2が95.4±1.1%、95.2±0.6%、96.3±0.9%に、脈拍が70.1±12.0拍、83.8±14.2拍、73.8±9.9拍に推移した。【考察】 ALS患者に対するエルゴ運動は、唾液アミラーゼが変化せず、ストレスなく実施可能な運動療法と思われた。また、ストレス緩和手段は深呼吸運動においてのみ唾液アミラーゼが有意に増加し、呼吸介助がストレスを緩和させる有効な手段と考えられた。唾液アミラーゼは、交感神経が亢進し、血中ノルアドレナリン濃度が上昇することにより活性化する。本研究において唾液アミラーゼが変化しなかったのは、エルゴ運動を呼吸苦が出ない範囲で実施したことで、交感神経活動が亢進されなかったと考えられる。ALSは交感神経が亢進すると考えられており、突然死の一因としても検討されている。よって、エルゴ運動は、ALS患者にストレスなく実施可能で、安全で有効な運動療法であることが示唆された。本研究結果のSpO2の結果は、対象者が深呼吸運動に対して心臓が心拍を調節し、ガス交換を円滑にする呼吸機能が残存していることを示している。しかし、深呼吸運動による唾液アミラーゼの変化率は、安静時に比べ有意に上昇している。ALSは、呼吸機能が残存する診断早期でも僅かな呼吸筋の萎縮により安静時から努力性呼吸を呈し、深呼吸運動が過剰な運動となりストレスとなった可能性がある。一方、呼吸介助は、患者の努力を必要とせずに換気量の増大が図れたことにより、唾液アミラーゼの変化率が安静時と変化せず、ALS患者のストレス緩和手段として有効と考えられる。【理学療法学研究としての意義】 難治性進行性疾患であるALS患者に、簡便に実施出来るエルゴ運動は、呼吸苦無く実施することでストレスを増加させず施行が可能であることを示した。さらに、ALS患者の運動後のストレス緩和手段として、用手的呼吸介助の有効性を示した。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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