理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
筋萎縮性側索硬化症患者に対する重錘負荷による呼吸理学療法の検討
今村 怜子藤川 太一北野 晃祐菊池 仁志
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p. Bb1431

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抄録
【はじめに、目的】 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は呼吸筋障害を伴う進行性の疾患で、呼吸理学療法として重錘負荷が有効とされている.しかし、負荷量や効果に関しての報告は少なく、確立されていない.本研究は、呼吸筋力トレーニングの一つである重錘負荷を用い、重錘の位置・負荷量・効果を検討した.【方法】 対象は、当院を受診している肺に合併症がないALS患者7名(67.0±8.0歳:男性4名、女性3名)と、呼吸器疾患を有さない健常人9名(37.0±12.3歳:男性6名、女性3名)とした.方法は、最大呼気流速(PCF)、肺活量(VC)、腋窩・剣状突起・第10肋骨の胸郭拡張差を計測した.その後、腹部・横隔膜・胸郭の各々に先行研究を参考に体重の5%の重錘を負荷し深呼吸を10回行い、再度上記計測を実施した.計測肢位は、端座位と背臥位とした.端座位は、上肢を体側に位置し、足底を接地させ、PCFと胸郭拡張差を測定した.背臥位は、上肢を体側に位置し、下肢を中間位とし、PCFとVCを測定した.重錘を負荷する部位の順番と、計測の順番はランダム化した.計測は、リハビリの介入前に実施し、1日以上の間隔を空け、合計3日間により行った.各計測項目における重錘負荷前後の即時的効果は、ウィルコクスン符号付順位検定を用いて検討した.統計学的処理にはDr.SPSS II for Windowsを用い、有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対しては文書を作成し、口頭で研究概要を説明し同意を得た.調査は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.ヘルシンキ宣言を遵守し、個人が特定されることがないよう注意した.また、研究への同意を撤回する権利を有することを説明した.【結果】 ALS患者において、有意差が得られたものを示す.腹部への重錘負荷は、端座位のPCFが261.4L/minから235.7L/minと有意に低下(P<0.05)し、胸郭拡張差が剣状突起にて2.5cmから3.4cm有意に拡大(P<0.05)した.横隔膜への重錘負荷は、VCが1.9 L/minから2.0 L/minと有意に増加(P<0.05)した.健常人において有意差が得られたもの示す.腹部への重錘負荷は、臥位のPCFが406.7 L/minから378.9 L/minと有意に低下(P<0.05)し、胸郭拡張差が剣状突起にて5.3cmから6.3cmと有意に拡大(P<0.05)した.横隔膜への重錘負荷は、座位のPCFが425.6 L/minから374.4 L/minと有意に低下(P<0.05)、胸郭拡張差が、第10肋骨にて3.0cmから3.6cmと有意差に拡大(P<0.05)した.胸郭への重錘負荷は、胸郭拡張差が腋窩にて4.6cmから5.2cmと有意に拡大(P<0.05)し、剣状突起にて5.6cmから6.3cmと有意差に拡大(P<0.05)し、第10肋骨にて2.6cmから3.5cmと有意に拡大(P<0.05)した.【考察】 ALS患者に対する重錘負荷による深呼吸運動は、即時的に呼吸機能の一部に向上効果を示した.腹部への重錘負荷は、剣状突起部の胸郭拡張差に有意な拡大を認め、重錘が吸気抵抗となり横隔膜の収縮力が向上し、ストレッチ効果が得られたと考える.しかし、端座位のPCFは低下している.背臥位のPCFが低下していないことから、10回の深呼吸に加え、体幹を保持する端座位では、体重の5%という負荷量では筋疲労が生じ咳嗽力が低下したと考える.横隔膜への重錘負荷は、VCが有意に増加した.これは、重錘負荷により横隔膜運動距離が増大し、換気量が増大したと考えられる.胸部への重錘負荷は、健常人で全ての胸郭拡張差に有意な拡大を示したが、ALS患者で差を認めない.健常人では、吸気時に十分に重錘を持ち上げることで、胸郭が拡張しストレッチ効果が得られた.しかし、ALS患者では呼吸筋力低下により重錘に抗しての吸気が行えなかったため、効果が得られなかったと考えられる.重錘負荷は進行や病型に囚われず実施する事が可能である.今回は即時効果であり、症例数も7名と少ない.長期的効果と共に、症例数を増やして検討していく必要があると思われる.【理学療法学研究としての意義】 ALSは発症早期から包括的呼吸ケアを実施する必要性があり、患者からの呼吸理学療法での進行を遅延させることへの期待は大きい.病型や進行状況に関わらず実施可能な重錘負荷による深呼吸運動において、促時的に呼吸機能の一部に向上効果を示す具体的手段を検討したことは有意義であると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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