理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
パーキンソン病患者における歩行アプローチについて
─二重課題を用いて─
緒方 このみ
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p. Bb1435

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抄録
【はじめに、目的】 パーキンソン病患者(以下PD患者)における自宅での転倒率は他の疾患に比較しても多いのが現状である。その大きな原因の一つに疾患の特性であるすくみ足や突進現象の異常歩行の出現がある。しかし、その対処方法として用いられるのは外的刺激(視覚刺激や聴覚刺激)が主であり、実際のこれらの異常歩行に対する理学療法としての介入方法は散見する程度である。PD患者では、基底核の障害により歩行の自動性が低下しており、歩行運動は注意機能に依存することが多い。そのため歩行時の障害物や目的物の直前などは注意が散漫となり特徴的な異常歩行が出現しやすくなる。近年、動作課題に認知課題を加える二重課題がPD患者のパフォーマンスを評価する上で注目されている。しかし、訓練に応用されている研究は少なく、その有用性は不明確である。そこで今回、二重課題を訓練として用い、その効果を検討したためここに報告する。【方法】 対象はPD患者15名(平均年齢73.7±14歳)。Hoehan&Yahr stage1~3でPD以外の中枢神経疾患を有さず、自立歩行が可能(歩行補助具使用でも可)な者とした。また、一年以内の転倒歴をカルテにて確認、および日常におけるすくみ足の有無を口頭にて確認した。方法は平行棒内にて60秒間任意のスピードで足踏みを行いながら、10秒間に1問の割合で足し算、引き算の簡単な計算問題を実施した。その際、必要な者は平行棒を片手にて把持してもらった。歩行能力の評価としてTime up and go test(以下TUG)と5m歩行を用いた。TUGに関しては、折り返し地点の指標から約30cmのところに印を設け、その間のカーブの歩数を計算した。また、TUG、5m歩行のいずれにおいてもその間に出現したすくみ足の回数を確認した。統計にはstatcel21を使用し、対応のあるt検定、またウィルコクソン符号順位和検定にて前後の比較を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 対象患者全員に評価内容、訓練内容の説明を実施し、データの使用許可を得た。【結果】 TUG、またTUGカーブの歩数においては二重課題実施前に比較し実施後は優位な差が認められ(P値0.0095<0.05)、二重課題の効果が期待できることが確認できた。5m歩行においては(P値0.09>0.05)にて優位な差は認められなかった。【考察】 PD患者における転倒には、特徴的な歩行障害が大きく関与している。すくみ足や突進現象は日常の場面でよく見られる症状であり、特に自宅内での、狭い場所や目的物の近く等の注意を要する場面において出現しやすい。その対処方法として述べられているのは外的刺激を応用するものがほとんどである。PD患者は歩行の自動性が障害されており、歩行を注意機能に依存することが多い。今回、PD患者に対して動作課題に認知課題を負荷することで、注意の分散下での動作の継続を促した。TUGにおいて有意差が見られたのは、起立・歩行開始・方向転換・着座等のPD患者が苦手とする動作が多く含まれていたため、二重課題における注意の分散の結果が出やすかったのではないかと考える。5m歩行は歩行のみへ注意すればいいという点において、課題による効果があまり発揮されない評価であったことが言える。しかし、今回の結果によりPD患者への注意機能に対する積極的な介入が、歩行障害の要因となるすくみ足の改善へと繋がる可能性を得た。また、訓練としてだけでなく多数の人数でできるレクレーション的要素も含む運動であるため、PD患者のみならず様々な場面にて応用できるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回は、二重課題実施前後の評価のみで即時効果の有用性しか言えないが、経過を追っていく事で、転倒回数の軽減や日常生活動作能力の向上へと結びつくのでないかと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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