抄録
【はじめに】 頚椎症性脊髄症(以下頚髄症)ではロンベルグ徴候などによりふらつきがみられることがある.我々は昨年の本学会で頚髄症患者における歩行能力と重心動揺検査には相関関係が認められたことを報告した.そこで今回頚髄症患者において日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(以下JOA)と歩行を術後6ヶ月時(以下術後)における改善状況で分類し術前と術後の重心動揺検査を比較検討したので報告する.【方法】 対象は2008年4月〜2011年2月に頚髄症により当院にて頚椎椎弓形成術を施行した176例中術後検査を受け、重心動揺検査が術前測定不能であった2例と術前後とも測定不能であった1例を除き、データ使用に許可を得られた48(男32、女16)例であり、診断名は頚髄症39例、頚椎後縦靱帯骨化症9例、平均年齢64.2±10.7(38-83)歳であった.検査測定にはJOA、10m最大歩行、重心動揺検査を行った.JOAは下肢における運動機能と知覚機能を採用し合計6点満点とした.10m最大歩行は前後2mの予備歩行路と10mの歩行路を設け最大努力下にて時間と歩数を計測し、重複歩距離と歩行率を算出した.重心動揺検査はアニマ社製重心動揺計グラビコーダーG620を使用し、裸足閉足立位にて開眼閉眼各々60秒間測定した.被験者には開閉眼時ともに頭部を一定に保つように指標を注視させ、外周面積(以下面積)、単位時間軌跡長(以下速度)、単位面積軌跡長(以下密集度)、総軌跡長、ロンベルグ率を求めた. 1)各検査項目を術前後で比較した.さらに術後のJOA、歩行時間、重複歩距離、歩行率を術前から改善、不変、低下に分類し、重心動揺の各項目について2)各群内における術前後比較、3)各群間における術前比較および術後比較を行った.統計学的処理には1)、2)にはWilcoxonの符号順位検定を、3)には群数に応じたノンパラメトリックの手法を用い、有意水準を5%とした.【説明と同意】 個人情報保護の観点から本研究におけるデータ使用に関して書面にて説明し同意を得られたものについて調査した.【結果】 1)JOAは3.8→4.6(術前→術後、以下同様に)点、歩行時間7.3→6.5秒、重複歩距離1.3→1.4m、歩行率2.3→2.4歩/秒、重心動揺検査における面積14.6→10.8cm2、速度3.8→3.4cm/秒、密集度20.2→22.6/cm、総軌跡長227.3→200.0cm、ロンベルグ率1.7→1.8であり、JOA、歩行時間、重複歩距離、面積、密集度で有意差を認めた. 2)JOA改善群は28例3.3→4.7点、不変群は20例4.5→4.5点で、 改善群において面積16.4→10.3cm2、速度4.1→3.3cm/秒、密集度18.2→22.6/cm、総軌跡長247.2→195.1cmで有意差を認めた.歩行時間短縮群は29例8.3→6.5秒、延長群は19例5.9→6.4秒で、短縮群において面積17.1→10.7cm2、密集度18.9→22.7/cmで有意差を認めた.重複歩距離延長群は30例1.2→1.4m、不変群は9例1.3→1.3m、短縮群は9例1.4→1.2mで、延長群において面積16.7→10.2cm2、密集度18.9→22.8/cmで有意差を認めた.歩行率増加群は26例2.2→2.5歩/秒、減少群は22例2.5→2.3歩/秒で、増加群において面積15.4→10.7cm2、総軌跡長235.4→190.8cmで有意差を認めた.不変群、悪化群には有意差を認めなかった.3)各群間に有意差は認められなかった.【考察】 諸家の報告と同様に頚髄症患者では面積と密集度は改善を認めた.JOA改善群では面積、密集度、速度、総軌跡長も改善を認め、このことからJOAの改善とバランスの改善は密接に関連していると考えられた.逆に不変群でJOAは改善しなかったがこれはバランスが改善しなかったためと考えた.術後において歩行やADLに即した練習、弱化筋に対する筋力強化、軸性疼痛へのアプローチで時間を割いており、バランス練習はおろそかになっている感もある.歩行時間短縮群は面積と密集度に改善が認められ、延長群は改善が認められなかった.その理由として延長群は短縮群より術後においても歩行速度は速く、進行予防の手術を受けた患者や、上肢障害を中心にもつcentral cord syndrome患者が含まれていると考えた.後者には後索性知覚障害を認めることが多く、そのことが重心動揺検査に影響を与えたのではないかと考えた.重複歩距離延長群で面積と密集度に改善が認められ、下肢支持性が向上して重複歩距離延長とともにふらつきも改善し、歩行率増加群で面積と総軌跡長に改善が認められ、体幹とのつなぎ目に働く下肢近位筋力が向上して歩行率増加とともにふらつきも改善したと考えた.【理学療法学研究としての意義】 頚髄症患者に対する後療法において、あまり取り入れられていないバランスを向上させるようなリハビリテーションを導入することで、歩行能力や運動機能が向上する可能性があり、今後検討していく必要がある.