理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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超音波診断装置を用いた肩峰下滑液包空間の測定の信頼性について
堀切 康平上野 貴大田邉 亮典瀧本 貴之伊藤 俊一
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p. Cb0493

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抄録
【はじめに、目的】 肩峰下滑液包は棘上筋、棘上筋腱を肩峰下面部分から保護する役割として知られている。肩関節は広範囲に可動性を有するため、不協調運動が繰り返されることで、容易に炎症を起こしやすい関節である。肩関節周囲炎に代表されるように肩峰下滑液包の炎症は多く見受けられ、炎症による影響として滑膜などの増生・肥厚が多くみられるといった報告をされている。症状として表れる関節可動域制限は肥厚に伴う一時的な組織の柔軟性欠如に起因すると解釈されている。滑液包などの軟部組織の病態評価として、近年、超音波診断装置は簡便、生体に対して非侵襲、そして動的観察が可能であるなどの点から有用性が高いとされている。超音波診断装置による肩峰下滑液包腔内間距離測定が可能となれば、患者の病態評価、治療介入効果の検証等への応用の可能性が考えられる。理学療法の分野においても、超音波診断装置の信頼性に関する研究が多くなされてきたが、肩峰下滑液包についての報告は少ない。また、超音波診断装置の肩峰下滑液包の病態評価の有用性および患者の病態評価、治療介入効果の検証等への応用の可能性そこで今回、超音波診断装置を用いた肩峰下滑液包の腔内間距離測定の信頼性を検証することによって、超音波診断装置の肩峰下滑液包の病態評価の有用性を確認することを目的とした。【方法】 対象は、肩関節の障害既往のない若年健常成人男性1名、年齢27歳とした。また、検者は2名の理学療法士とした。測定には、東芝メディカルシステムズ社製Nemio XGの7.5Mhzリニアプローブを使用し、肩峰下滑液包の腔内間距離測定であるためBモードとした。測定方法は、筋・骨格画像研究会に準じた。対象者は椅子座位にて上肢を自然下垂し、その際の両側の肩峰下滑液包をそれぞれ個別に描写した。超音波診断装置の描写方法として、上腕骨大結節と肩甲棘上縁外側端の結線上の肩峰直下にプローブの位置決定をし、また、対象者に肩関節を内外旋させることで肩峰下滑液包と腱板の動きの差から境界面を観察した。プローブ走査は音波が垂直に入射するように短軸走査した。画像調整方法については、体表から3cmの領域にフォーカス、ズームの調整をし、ゲイン、STC、コントラスト調整の設定を全ての画像において統一した。腔内間距離測定については上腕骨大結節中央部の直上位置における肩峰下滑液包の腔内間距離と描写された肩峰下滑液包のうち最大となる腔内間距離の計2箇所について測定した。測定回数は対象者に対して、2名の検者がそれぞれ5回測定した。5回の測定値による検者内信頼性および検者間信頼性について、それぞれ級内相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には事前に研究目的、測定方法を十分に説明し同意を得た。【結果】 肩峰下滑液包の上腕骨大結節中央部の直上における肩峰下滑液包の腔内間距離測定は、ICC(1,1) 検者A :0.9306、検者B:0.9200であった。最大腔内間距離測定は、ICC(1,1)検者A:0.9479、検者B:0.9375であった。ICC(2,1)は、(右、左)(0.9736、0.9853)であった。【考察】 検者A、Bともにも0.9以上であり、超音波診断装置を用いた肩峰下滑液包空間幅の測定における検者内信頼性、検者間信頼性ともに、Landisの判定基準によると高い信頼性(0.81以上)を保証できることが示された。また、ICC(1,1)の肩峰下滑液包の腔内間距離の2群間比較では、最大腔内間距離測定においてICCが検者A、Bともにやや高い数値を示したが、いずれにおいても優れた信頼性を示した。したがって経過観察などにおいて比較検討する上では、腔内間距離の測定位置を一定に定める必要性はあると考えるが、上腕骨大結節中央部の直上に固執する必要性は低いと考えた。ICC(2,1)において、左右の肩峰下滑液包腔内間距離測定では、左右ともに検者間信頼性が得られる結果であった。【理学療法学研究としての意義】 超音波診断装置による肩峰下滑液包の腔内間距離測定について有用性が確認されたことで、臨床における肩峰下滑液包に関する超音波診断装置を用いた患者の病態評価、治療介入効果の検証等への応用についてその可能性が示されたことから有意義であったと考える。今後の課題としては、超音波診断装置を用いた肩峰下滑液包の病態評価の有用性を検討する上で、肩峰下滑液包に病態を有する患者との比較検討や動的観察といった基礎研究から、多面的に病態評価の有用性について検討していく必要があると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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