理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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腱板断裂サイズが術後の肩関節機能に及ぼす影響について
雫田 研輔田島 泰裕荻無里 亜希山室 慎太郎高橋 友明畑 幸彦
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p. Cb0512

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抄録
【はじめに、目的】 腱板が正常に機能するために,肩甲胸郭関節は土台として非常に重要な役割を果たしている.前回の本学会で,われわれは,腱板断裂術後の腱板機能の回復を阻害する因子が断裂サイズ,肩甲骨周囲筋の筋活動量,肩甲骨の位置異常および疼痛の有無であることを報告した. 今回,われわれは,これらの因子のうち“断裂サイズ”に注目して,断裂サイズの違いが腱板機能,肩甲骨周囲筋の筋活動量,肩甲骨の位置異常および肩関節可動域に及ぼす影響について調査したので報告する.【方法】 腱板断裂術後6ヵ月経過した83例83肩を対象とした.手術時平均年齢61.2歳(48~83歳),男性46例・女性37例であった.症例をDeOrio&Cofield分類にしたがって断裂サイズで分類し,small tear11肩(以下,S群),moderate-sized tearは43肩(以下,M群)およびlarge tearは29肩(以下,L群)の3群に分けた.3群間で,1:年齢,2:性別,3:罹患側,4:棘上筋テスト,5:肩甲骨の位置(内上角~脊椎までの距離:上部SSD,下角~脊椎までの距離:下部SSD),6:肩甲骨周囲筋の表面筋電図所見,7:肩関節可動域(外転位外旋,外転位内旋)ついて比較検討を行った.なお,表面筋電図はNoraxon社製Myosystem1200を用いて,肩甲骨内側筋上部,中部,下部線維を被験筋として肩甲骨内転の最大等尺性随意収縮3秒間を3回計測した.得られた筋電波形を整流平滑化し,筋電図積分値(以下iEMG)を求めた.得られたiEMGを健側のiEMGにて正規化し,%iEMGを算出した.統計学的検定は年齢,肩甲骨位置,%iEMG,肩関節可動域は多重比較検定を行い,性別,罹患側,棘上筋テストはχ2検定を用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の趣旨を説明し同意を得られた患者を対象とした.【結果】 手術時平均年齢,性別,罹患側において3群間で有意差を認めなかった.棘上筋テストはS群では有意に陰性が多く,M群とL群では有意に陽性が多かった.肩甲骨位置では上部SSDは有意な差を認めなかったが,下部SSDはM群とL群がS群より有意な健患差を認めた.%iEMGは肩甲骨内側筋上部線維ではM群とL群がS群より有意に高値であり,中部線維では有意な差を認めなかったが,下部線維ではM群とL群がS群より有意に低値であった.肩関節可動域は外転位外旋では3群間に有意な差を認めなかったが,外転位内旋角度ではM群とL群がS群より有意に小さかった.【考察】 今回の結果では,術後6ヵ月時においてmoderate-sized tear以上の断裂では棘上筋の機能不全を認める症例が多く,下部SSDの健患差が大きく,肩甲骨内側筋上部線維の活動量が高く,下部線維の活動量が低く,外転位内旋角度の低下を認めた.肩外転位内旋可動域が不良である症例はX線画像上で上腕骨頭に対して肩峰の先端が前方へ被っていたという塚本らの報告から,本研究で得られた「moderate-sized tear以上の断裂では肩外転位内旋角度が低下していた」という結果は日常生活に適応するために肩甲骨を前傾・上方回旋する必要性を生じるので「moderate-sized tear以上の断裂では肩甲骨内側筋上部線維の活動量が高く,下部線維の活動量が低かった」という結果を引き起こし,肩甲骨の位置異常すなわち「moderate-sized tear以上の断裂では下部SSDの健患差が大きかった」という結果をもたらしたと推測された.さらに,腱板はいずれも肩甲骨を起始部としているため,腱板が正常に機能するには肩甲骨が胸郭上で安定していることが重要であるという高村の報告から,肩外転位内旋角度の低下によって生じた肩甲骨の位置異常が「moderate-sized tear以上の断裂では棘上筋の機能不全を認める症例が多い」という結果を引き起こしたと思われた.したがって,moderate-sized tear以上の断裂例では肩外転位内旋角度の低下があると肩甲骨位置異常が起こり,腱板機能不全の原因となりやすいので,術後理学療法プログラムには肩関節外転位内旋の可動域訓練と肩甲骨周囲筋の再教育が必要であると思われた.【理学療法学研究としての意義】 腱板断裂術後理学療法プログラムには肩関節可動域訓練と肩甲骨周囲筋の増強訓練が通常含まれているが,今回の研究結果からmoderate-sized tear以上の断裂例では肩関節外転位内旋の可動域訓練と肩甲骨周囲筋の再教育が特に必要であるということが分かった.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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