抄録
【はじめに、目的】 近年、リハビリテーションと栄養との関係が注目されている。大腿骨近位部骨折と栄養の視点から見ると、死亡率、術後合併症、在院日数との関係を述べた研究は比較的多く存在するが、栄養介入にはまだ弱いエビデンスが存在するだけであるとしている(Avenellら、2010)。リハビリテーションの帰結を焦点に当てた研究は少なく、栄養学的因子とアウトカムを移動能力とした先行研究では、摂取エネルギーと術後4週のアルブミン値を挙げている(古庄ら、2009)。しかしながら、身体計測や栄養アセスメントツールや回復期からの報告はみられない。そこで本研究の目的は、大腿骨近位部骨折患者の回復期リハビリテーション病院退院時の移動能力と、身体計測や栄養アセスメントツールを含む栄養学的因子との間に関係があるかを調査した。【方法】 本研究は後ろ向き研究で、情報収集はデータベースおよびカルテより行った。期間は2008年1月~2011年3月で、転倒を起因とした大腿骨近位部骨折にて急性期病院にて手術を施行し、回復期のリハビリテーション目的でリハビリテーションセンター熊本回生会病院へ転院となった194例である。対象はこの中から、受傷前生活場所が在宅かつ受傷前屋内移動能力が独歩であった者で、急性期医療施設への転院とデータ収集ができなかった者を除外した96例(平均年齢84.0±7.4歳)とした。退院時に自立もしくは見守りレベルで、連続50m以上獲得した「できる移動能力」とし、独歩群15例、杖群45例、歩行車群20例、未獲得群16例の4群に分けた。栄養学的因子に関する項目として、入院時・入院1カ月(1M)・退院時の簡易栄養状態評価表Mini Nutrition Assessment-Short Form(MNA-SF)、Body Mass Index(BMI)、下腿周囲長(非術側の最大部)、入院時から1M・入院時から退院時の体重変化量とした。なお、統計学的検討には統計ソフトR2.8.1にて分割プロットデザインの分散分析を使用し、交互作用がみられた項目については多重比較を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき実施した。対象者においては個人情報保護に対する同意を得て個人が特定されないよう配慮し、また、当院の倫理委員会による承認を得て実施した。【結果】 MNA-SFは有意な交互作用がみられ(p<0.01)、入院時は未獲得群に対して独歩群・杖群が有意に高く(p<0.01)、また1M・退院時では他群に対して、独歩群が有意に高く(p<0.01およびp<0.05)、未獲得群は有意に低かった(p<0.01およびp<0.05)。BMIは有意な交互作用がみられ(p<0.01)、1Mでは独歩群・杖群に対して未獲得群が有意に低く(p<0.05)、退院時には未獲得群が他群に対して有意に低かった(p<0.01およびp<0.05)。下腿周囲長は有意な交互作用はみられず、独歩群・杖群に対して未獲得群が有意に低かった(p<0.01およびp<0.05)。体重変化は有意な交互作用がみられ(p<0.01)、入院時から1Mでは、他群に対して未獲得群が有意に低く(p<0.01)、入院時から退院時では他群と比較して、独歩群が有意に維持・増加し(p<0.01およびp<0.05)、未獲得群が有意に減少した(p<0.01およびp<0.05)。【考察】 本研究結果より、受傷前屋内移動が独歩であった者が回復期リハ病院退院時に独歩獲得となるか、または歩行車歩行や杖歩行が未獲得となるかには、栄養状態が関与している可能性がある。これは受傷前から存在する低栄養やそのAt risk、または骨折や手術によるサルコペニアによるものが考えられる。さらには、栄養状態が悪く不適切な栄養管理下でレジスタンストレーニングや持久力増強訓練を行うと、さらに低栄養や筋力、持久力低下となる(若林、2011)と述べていることからも示唆される。またMichelleら(2005)の先行研究においても、栄養介入をせずに訓練を行った群は、有意な体重減少があったことを報告しており、大腿骨近位部骨折における栄養状態の評価・介入と理学療法は切り離すことができないものである。今後の課題として、栄養介入による検証が必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、栄養状態と大腿骨近位部骨折におけるリハビリテーション帰結の一つであるより高い歩行能力獲得には関係が示唆される。そのため、最大限の効果や回復を図るためにも、栄養管理と理学療法の併用は今後研究が進められていくべき領域であり、その点からも本研究には意義がある。