抄録
【目的】 大腿骨近位部骨折術後患者における理学療法の目標は受傷前能力の再獲得であるが、基本動作能力や歩行能力が受傷前より低下し、自宅への退院が困難となる症例も多くみられる。このような症例に対し術後早期に転帰先を判断することは、理学療法プログラムの立案や住宅環境整備、介護保険申請などの準備の一助となる事が考えられる。そこで本研究では、術後の転帰先に関わる術後早期の機能因子を探るため、当院の大腿骨近位部骨折術後患者を退院群と転院群に分類し、荷重開始時および荷重開始1週後の動作能力を比較することを目的とした。【方法】 当科の大腿骨近位部骨折評価表データベースより、2010年9月から2011年9月に手術、理学療法を施行した入院患者32例のうち、指示理解が困難な者、重度運動障害を有する者は除外した。また、術後2週間以内に荷重を開始し、受傷前が在宅生活で屋内歩行見守り以上であった26例を対象とした。平均年齢80.3±7.7歳、男性3例、女性23例、骨折型は大腿骨頚部骨折23例、転子部骨折3例であった。術式は人工骨頭置換術が21名、Compression Hip Screwが2例、γ- nailが3例であった。屋内歩行見守り以上で自宅退院が可能であった退院群18例と回復期病院や施設入所など自宅退院が困難であった転院群8例の2群に分類し、術後早期の基本動作能力を比較した。基本動作能力はAbility for Basic Movement Scale(以下ABMS)を用い寝返り・起居動作・座位保持・起立・立位保持の各項目にて評価した。歩行は長さ3.5mの平行棒による直線歩行にて、見守り以上と要介助に分類した。また年齢、術後在院日数、受傷前Barthel Index(以下BI)、退院時ABMS、退院時BIについても2群間で比較した。統計処理は、2群間の比較についてABMSやBIはMann-Whitney U検定を用い、歩行能力はカイ二乗検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき患者の同意を得て行った。【結果】 術後在院日数は、退院群32.1±5.6日、転院群42.9±18.5日であった。年齢、受傷前BIには統計的な差はなかった。ABMSでは、術後患肢荷重開始時の立位(P<0.05)で有意差がみられ、寝返り(P=0.059)、起居動作(P=0.094)、起立(P=0.066)の4項目では退院群が高い傾向を示した。荷重開始一週後は、起立(P<0.05)、立位保持(P<0.05)で有意差がみられ、寝返り(P=0.058)、起居動作(P=0.08)の2項目は退院群が高い傾向を示した。また座位保持はいずれも有意差はみられなかった。退院時は全項目で、退院群が有意に高かった。平行棒内歩行能力(監視以上/要介助)は、荷重開始時(退院群:17/1、転院群:3/5)及び荷重開始1週後(退院群:18/0、転院群:4/4)ともに退院群は有意に歩行能力が高かった。退院時BIも、退院群が有意に高かった(P<0.05)。【考察】 今回、大腿骨近位部骨折術後患者に対し、転帰先に関わる早期動作能力を検討するため、荷重開始時及び荷重開始1週後のABMSと平行棒内歩行に着目し比較を行った。その結果、退院群と転院群ではABMSの得点や平行棒内歩行の可否に差がみられ、これらの評価によって術後早期に転帰先を判断できる可能性が示唆された。大腿骨近位部骨折患者の転帰先に関わる報告では、年齢や受傷前の能力差が転帰先を決定する因子となるとされている。しかし本研究では、退院群と転院群には年齢や受傷前ADL能力(BI)に差はないにも関わらず退院/転院時のABMSやBIに差が生じており、本研究の対象者は術後の動作能力を基に転帰先が決められていると考えられる。さらに、その基本動作能力は術後早期より群間に差が生じていることから、早期より術後約1ヶ月後の基本動作能力を予測しうる可能性を示している。ABMSの各項目をみると、退院群は患肢の支持性を必要とする起立、立位保持能力の得点が高いだけでなく、寝返り、起居動作についても高い傾向にある。これは、術後早期より患側股関節周囲の筋力を発揮できることでそれらの動作を可能とし、自力で起き上がれることで病棟生活での離床時間の延長につながり、ADL改善を促進させたと推察される。また、術後1週間後の予測として、平行棒内歩行の往復時間を計測することが有効とする報告もあるが、本研究結果では荷重開始時もしくは荷重開始1週後では平行棒内歩行が困難である者も多かった。よって動作時間だけでなく、平行棒内歩行の可否によって転帰先を検討する必要性があると考えられた。以上の事から、荷重開始時のABMS及び平行棒内歩行は退院時の歩行能力及び転帰先を判断する一つの目安になることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 大腿骨近位部骨折患者の臨床において、早期から効率よく客観的に評価し、理学療法プログラムを立案、施行していく上で、術後早期の機能予後予測は意義がある。