抄録
【はじめに、目的】 内側型変形性膝関節症(以下、膝OA)に対する治療の1つとして装具療法が選択されている。装具療法の1つである膝外反装具Unloader one(以下、U1)は歩行時除痛、内反モーメント減少の効果があるとされ、U1を装着した歩行解析では外部膝内反モーメントの積分値の観点から日常的な歩行時のストレス減少効果があることが認められる。膝OAにおいては歩行立脚初期にみられるLateral thrustや、screw-home movementの破綻などが知られており、これらの大腿骨-脛骨間骨運動を把握することは膝OAの病態を考える上で重要であるが、その歩行解析の報告は少ない。そこで生体への侵襲を伴わない標点計測によって微細な膝関節運動を正確に計測することが可能なPoint Cluster法(以下PC法)を用いて、歩行中の大腿骨-脛骨運動を解析し膝外反装具が大腿骨-脛骨運動に及ぼす影響について検討することとした。【方法】 対象は膝関節に既往歴のない健常者8名(男性4名、女性4名、平均年齢21.8±0.8歳(平均値±標準偏差))とし、測定膝は左膝に統一した。マーカは測定膝のPC法により定められた位置に23個貼付した。計測動作は被験者の快適速度による通常歩行を5回、U1装着時、非装着時の2条件で行った。2条件の測定順序はランダムとした。計測には3次元動作解析システム(赤外線カメラ7台、VICON612:Vicon Motor System社 )を用い、下肢に貼付したマーカ座標を記録した。解析はVicon Workstation(Vicon Motor System社)、Vicon Bodybuilder(Vicon Motor System社)を用い、PC法により大腿骨に対する脛骨の屈曲-伸展、内反-外反、内旋-外旋角度および前後移動量を算出した。解析データは装具装着、非装着時ともに、装具非装着時の静止立位からの相対的変化量を求め、1歩行周期を100%と規格し、解析可能な試行における平均値とした。統計処理はSPSS ver.19.0J for Windows(SPSS Japan社)を使用し、t検定を行い有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当大学院保健学研究科倫理審査委員会の承認を得て行った。対象は自らの意思に基づき本研究に参加し、動作計測前に研究代表者が説明文書に基づいて研究内容を説明し、同意文書への署名にて同意を得た。【結果】 非装着時に対して装着時の全ての測定膝で、立脚中期から立脚終期(歩行周期29%から57%)における膝関節屈曲角度が有意に増大した(p<0.05)。装具装着時の1例を除いて立脚中期から遊脚期において外反角度が増大し、非装着時と比較して歩行周期4%から96%で膝外反角度が有意に増大した(p<0.05)。装具装着時の全ての測定膝で立脚期外反角度よりも遊脚期外反角度が増大し、遊脚期における最大膝外反角度(2.5±5.9°vs.13.1±4.4°)が有意に増大した(p<0.01)。装具装着時の遊脚期(歩行周期63%から75%)において、大腿骨に対する脛骨の外旋角度が有意に増大した(p<0.05)。大腿骨に対する脛骨の前方移動量は歩行周期全体で有意差は見られず、脛骨前方移動量最大値も有意差はなかった。【考察】 膝OAに対する膝外反装具の目的は膝関節に対して外反力を加えてアライメントを矯正することであり、U1のような3点支持装具の場合の矯正力は膝伸展位で発生するとされ、本実験でも膝伸展位である立脚期に外反が増大している。先行研究では膝内反モーメントは減少しており、本実験でも大腿骨に対して脛骨が外反し膝外反装具が外反矯正に効果的であることを示している。3点支持装具の矯正力は膝屈曲位では機能しないとされているが、本実験では立脚期の膝伸位よりも膝屈曲位である立脚終期および遊脚期で膝の外反角度が増大していることが確認された。立脚中期から立脚終期においてはU1の矯正力による膝屈曲角度増大したことで、膝側副靭帯が弛緩して側方支持力が低下し外反角度が増大したと考えられる。遊脚期においては立脚終期に見られた膝屈曲-伸展角度に有意差はなく、本来の装具矯正力とは異なった負荷がかかっている可能性が考えられる。膝OAは荷重がかかる立脚期に着目することが多いが、遊脚期でも装具が大腿骨-脛骨間の運動にもたらす矯正機序を解明していく必要がある。今後は膝OA患者に対象を拡大し、OA膝に対して膝外反装具がもたらす効果、及び健常者との比較に対してのさらなる研究が求められる。また遊脚期を含めた歩行周期全体での装具効果を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 膝関節微細運動の観点から膝外反装具装着、非装着時の大腿骨-脛骨相対的運動変化についての知見を得ることは、膝外反装具の効果判定、および装具療法の適応を考える上で重要である。