抄録
【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下、膝OA)に対する運動療法は、副作用発生の危険性が少なく、短期的な疼痛および下肢機能の改善に有効であることが明らかになっている。我々は、膝OA患者が運動療法を長期間、容易に行えることを目的に、Deyleらが無作為化比較試験によりその効果を示した運動療法プログラムをもとにプログラムDVDを作成し、これまでに本プログラムが、短期的また長期的に膝関節痛、運動機能を有意に改善させることを報告した。一方、身体活動量の減少は生活習慣病の発症リスクの増加、QOLの低下、死亡率の増加に関与することが報告されている。膝OA患者においては、膝関節の疼痛および機能障害により歩行能力が低下するため、その進行とともに身体活動量が減少することが予想される。したがって、膝OAに対する運動療法においては、下肢運動機能の改善のみではなく、身体活動量への効果を考慮すべきと考えられる。しかし、膝OAに対する運動療法介入が身体活動量に与える効果について検討している研究はほとんどない。本研究の目的は、DVDを用いた運動療法の介入が膝OA患者の身体活動量に与える効果を検討することである。【方法】 対象は、北海道大学病院リハビリテーション科に通院し、一側膝がKellgren-Lawrenceの分類にてgradeII以上を満たした27例(女性25名、男性2名、66.11±6.86歳、153.30±6.05cm、56.46±9.10kg)であった。運動療法介入は最初の8週間は毎週1回理学療法士指導の下でプログラムDVDを視聴しながらプログラムに従い運動療法を行い、それ以外の日には同DVDを用いて自宅で運動療法を行うように指導した。9週以降は、自宅でのDVDを用いた運動療法のみとした。また、全ての被験者にはダイアリーを配布し、毎日の運動内容を記載するよう指導した。これら対象に対し、介入前と介入12か月後に身体活動量、膝関節痛、SF-8、WOMACを評価した。身体活動量の調査には、国際標準化身体活動質問紙表のShort Versionを使用した。膝関節痛に関しては、歩行時の疼痛をVisual analog scale(以下、VAS)を用いて評価した。また、ダイアリーの記載内容から1週間当たりの運動日数を算出し本運動療法プログラム遵守の指標とした。統計学的検討は、介入前と介入12か月後の比較を、膝関節痛、SF-8、WOMACは対応のあるt検定、身体活動量はウィルコクソンの符号順位和検定を用いて行った。また、身体活動量が介入後12か月に増加・減少したものの割合を算出した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究に際し北海道大学病院自主臨床試験審査委員会に申請し承認を得、全被験者には本研究の趣旨を紙面と口頭にて説明し同意を得た。【結果】 1週間当たりの運動療法実施日数は、4.19±2.23日であった。膝関節痛は、介入前30.07±18.86mmと比較し介入12か月後では4.15±5.43mmと有意に減少した(p<0.001)。SF-8に関して、身体的健康に関するスコアでは介入前39.67±5.20と比し、介入12か月後において47.03±4.01と有意な増大を示したが(p<0.001)、精神的健康に関するスコアでは、介入前後で有意差を認めなかった(57.52±5.46、56.56±3.03、p=0.449)。WOMACは、介入前12.44±7.73と比し、介入12か月後で1.41±1.58と有意な改善を示した(p<0.001)。身体活動量は、統計学的有意差は検出できなかったものの(p=0.136)、介入前166.17±218.55kcal/dayと比較し、介入12か月後では205.50±234.63kcal/dayと増加する傾向にあった。また、介入12か月後に身体活動量の増加を認めたものは27名中21名(77.8%)であった。【考察】 DVDを用いた運動療法プログラムによる介入は、12か月後の膝関節痛を軽減させ、運動機能の指標であるWOMAC、またQOLの指標であるSF-8のスコアを有意に改善させた。身体活動量においては、統計学的有意差は検出できなかったものの、介入後12か月に約8割の膝OA症例の身体活動量を増加させた。膝関節痛の軽減、運動機能の改善が身体活動量の増加をもたらしたと思われる。今後は、身体活動量が減少した症例の特徴を検討し、介入時の指導内容に反映させることが必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】 DVDを用いた本運動療法介入が長期的に膝OA症例の身体機能、QOLを改善させるのみではなく、身体活動量を増加させうることを示した。