理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
人工膝関節置換術前後の皮膚の伸張性と皮下の滑走性の比較
─X線画像を用いた新しい試み─
久保 憂弥伊藤 直之大谷 浩樹川端 克明谷口 修也尾島 朋宏
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Cb1146

詳細
抄録
【はじめに、目的】 関節可動域(以下,ROM)制限の要因の一つとして,皮下の滑走性低下や皮膚の伸張性低下が唱えられている.関節は皮下での滑走と皮膚自身の伸張とを同時に生じさせることによりスムーズな運動を可能にするとされている.臨床では,人工膝関節置換術(以下,TKA)後のケロイド形成や皮下の癒着,瘢痕によりROM制限が生じた症例を経験する.浅野は皮膚の滑走と伸張の双方を評価することは不可能に近いと報告している.我々の渉猟する範囲では,皮膚の伸張性に関する報告は散見されるが,皮下の滑走性に関する報告は見当たらない.本研究は,X線画像を用いて膝関節前面の皮膚の伸張性及び皮下の滑走性の測定を試み,TKA前後での変化について検討することを目的とした.【方法】 対象は,変形性膝関節症を有しTKAを施行した女性14名15膝(平均年齢77.1±6.2歳).全例,皮膚切開は膝蓋骨下縁レベルでの横皮切,関節展開はMedial Parapatellar Approach,使用機種はStryker社Scorpio NRG PSタイプである.測定方法は直径2mmのメタルボールを膝蓋骨中央(Patellar Center:以下PC),PC遠位3cm,PC近位3・6・9cmの5か所に瞬間接着剤にて皮膚上に貼付した.放射線技師がX線画像撮影を行った.術前と術後4週(以下,術後)に伸展位及び100°屈曲位(以下,屈曲位) の側面像を撮影した.伸張性の評価は,各メタルボール間4か所の距離を測定し,屈曲位での距離から伸展位での距離を減じた値を伸張距離とした.滑走性の評価は,各メタルボールから筋表面に対し垂線を引き,その交点から膝蓋骨上縁の距離を測定し,屈曲位での距離から伸展位での距離を減じた値を滑走距離とした.全例,膝蓋靱帯の長さは伸展・屈曲位で有意差がないことを確認している.また,この測定は同一検者が行い検者内信頼性ICC0.8以上と良好な信頼性を確認している.本法を用いて,膝関節屈曲に伴う皮膚の伸張距離と滑走距離をTKA前後で比較した.統計学的処理は対応のあるt検定を用い,危険率5%未満を統計学的有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,X線画像撮影に関して主治医が同意を得ており,研究内容に関して検者が口頭にて説明を行い同意を得ている.【結果】 各測定部位の伸張距離及び滑走距離を,術前・術後の順に示す.皮膚の伸張距離は,PC遠位3cmとPC間(0.81,0.56cm),PCとPC近位3cm間(1.07,1.01cm),PC近位3cmと6cm間(1.37,1.38cm),PC近位6cmと9cm間(0.97,1.03cm)であった.PC遠位3cmからPC間の伸張性は,術前と比較して術後で有意な低下が認められた(p<0.05).他の部位においては,術前後で有意な差は認められず,特にPC近位3cmと6cm間及び6cmと9cm間において術後で伸張性が増加する傾向が認められた.皮下の滑走距離は,PC遠位3cm(0.83,0.16cm),PC(1.63,0.64cm),PC近位3cm(2.4,1.46cm),PC近位6cm(3.54,2.61cm),PC近位9cm(4.45,3.56cm)であった.すべての部位において皮下の滑走性は,術前と比較して術後で有意な低下が認められた(p<0.05).【考察】 本研究の結果より,術前と比較して術後で皮切が存在するPC遠位3cmからPC間の伸張性が有意に低下した.森口らは,創傷治癒過程において皮膚を含めた軟部組織は術後2~3週である程度の強度をもち,表面が平滑な瘢痕を形成すると報告している.したがって,術後4週においては創部の瘢痕形成が完了しているため,創部周囲の伸張性が低下したと考えられる.また,全ての部位において術前と比較して術後で皮下の滑走性が有意に低下した.その要因として,Medial Parapatellar Approachにより内側広筋と大腿直筋間を長軸方向に関節展開し縫合していることから,皮下組織の瘢痕形成により滑走性が低下したと考えられる.しかし,PC近位3cmから近位の部分では術後に伸張性が増加する傾向が認められた.浅野らはTKA後に皮膚の伸張性低下と硬さが生じた部位があると,その前後で代償的な伸張が生じると報告している.よって,結果より皮下の滑走性低下と創部の伸張性低下を来した不足分を,創部より近位の皮膚の伸張性を代償的に増加させることによって可動域を補足した可能性が推察された.【理学療法学研究としての意義】 皮下の滑走性の評価は未だ確立されていないため,我々の新しい試みは活用できる一つの方法であると考えられる.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top