抄録
【はじめに】 近年、在院日数の短縮に伴い、入院中の理学療法介入も短縮している傾向にある。その中で、人工膝関節全置換術(以下、TKA)症例に対して術前から術後の歩行補助具(以下、補助具)に関する予測を立てる事が可能になれば、術後の円滑な理学療法介入の一助になると考える。術前の運動機能や身体的特徴などの因子が、TKA術後の補助具使用の有無にどのような影響を与えるかを検討した報告は少なく、術前機能から術後の補助具の使用状況を予測する場合には担当理学療法士の判断に委ねられている。当大学附属の4病院(以下、4病院)では2010年度から共通のTKA評価表を運用している。本研究では、そのデータを基に、TKA患者の術前機能を調査し、どのような術前機能が術後の補助具使用の有無に影響を及ぼすか検討することを目的とする。【方法】 2010年4月~2011年7月までに4病院にてTKAを施行し、術前に評価が可能であった42名46膝(男性6名、女性36名、年齢75.6±7.4歳、BMI26.3±3.1)を対象とした。対象疾患は変形性関節症(以下、OA)のみとし、両側同時にTKAを施行した症例は除外とした。方法としては、4病院で運用している評価表の術前データを後方視的に調査した。調査項目は1)BMI、2)術側JOA score、3)非術側JOA score、4)術側膝屈曲ROM、5)術側膝伸展ROM、6)非術側膝屈曲ROM、7)非術側膝伸展ROM、8)術側膝屈曲筋力、9)術側膝伸展筋力、10)非術側膝屈曲筋力、11)非術側膝伸展筋力、12)5m歩行時間、13)5m歩行歩数、14)Timed Up & Go Test(以下、TUG)、15)Quick Squat(以下、QS)、16)補助具使用の有無(理学療法室内)、17)非術側の状態(正常・OA・TKA)、18)疼痛の有無の18項目とした。筋力測定にはアニマ社製μ-TasF-01を用い、60°ベルト固定法にて2回測定し、そのうちの最大値を採用し除体重値(kgf/kg)に換算した。TUG、QSはそれぞれ2回測定し平均値を求めた。QSはstretch-shortening cycle運動の評価として当評価表に取り入れており、膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間可能な限り素早く行い、その回数を測定した。術後8週で、理学療法室内での歩行において補助具を使用している患者を補助具群、使用していない患者を独歩群の2群に分類した。統計処理は、2群間の術前の各測定項目の比較に、1)~15)はMann-Whitney’s U test、16)~18)はχ二乗検定を用いた。また、2群間で有意差が認められた項目を説明変数、術後8週の補助具使用の有無を目的変数としてロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。全ての検定は5%を有意水準とした。【倫理的配慮】 本研究は当大学倫理委員会の承認を受け施行した。【結果】 補助具群は23膝、独歩群は23膝であった。2群間比較の結果、術側JOA score(中央値、以下同様:補助具群60、独歩群70、p=0.02)、非術側JOA score(補助具群65、独歩群80、p=0.02)、5m歩行歩数(補助具群11、独歩群9、p=0.02)、TUG(補助具群13.2、独歩群10.7、p=0.01)、QS(補助具群6.0、独歩群8.0、p=0.04)、補助具使用の有無(p=0.003)の6項目において有意差を認めた。その他の項目では有意差は認められなかった。ロジスティック回帰分析の結果、術前の補助具使用の有無のみが術後8週の補助具使用の有無に有意に関連していた(偏回帰係数1.57、p=0.047、オッズ比4.78)。【考察】 術前の2群間の比較において有意差が認められた項目は全て複合的な機能・能力の評価指標となっているものであった。このことより、補助具群と独歩群では、術前の時点において複合的な能力に差があることが示唆された。また、ロジスティック回帰分析の結果、今回調査した18項目の中では、術前の補助具使用の有無のみが術後の補助具使用の有無に影響する結果となり、術前の補助具の使用状況が術後まで影響していることが示された。【理学療法学研究としての意義】 TKA患者の術後の補助具使用状況が予測できれば、それを基に適切な目標設定・治療選択を行える可能性があると考える。また、患者に対しても客観的指標を基にした目標提示をすることで、動機付けの一助となることが期待できる。