理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
関節はネジである
─膝関節伸展機構の演繹的解析─
山本 泰司佐藤 文在
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キーワード: 膝関節, 螺旋形, 演繹論
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p. Cb1404

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抄録
【はじめに】 教書によれば膝関節伸展は膝蓋骨による滑車作用で効率よく伸筋群が作用すると述べられている。脛骨祖面に付着した膝蓋腱の中枢部分を回転中心から遠ざけ、牽引力の作用モーメントを増大させているとのことである。ここで疑問が生じる。滑車の作用があるとはいえ、あまりにも運動軸に近い位置に付着部がある。下腿の重心位置からも遠く、物理学的に考えても動力の伝達は困難であり運動が生じるとは思えない。また膝蓋骨がなくても膝伸展は可能である。膝蓋骨を摘出した患者の膝伸展機能改善の理学療法を経験しており、文献も多数ある。このように反例はあるものの、膝は事実、伸展している。では、その動力伝達の仕組みは如何なるものであろうか。結論から言えば、膝関節は回転しながら伸展している。関節の形状、筋の付着する角度、位置から考えた場合、ネジのように回転することで伸展を達成しているのである。まず、通常の滑車システムにおいて脛骨祖面が付着部の場合は、伸展はほぼ不可能であることを、模型を用いて確認する。そしてネジのように回転しながら伸展する仕組みについて、事実関係を集積し、演繹論を用いて考察する。【方法】 タコ糸と重錘で下腿部を伸展させる模型を作成した。材質は模型作成用のプラスチック。スケールは5分の1とした。大腿骨長を40cm、脛骨長を30cm下腿重量は、3210g(体重60kgの場合)として想定。よって大腿長8cm、脛骨長6cm、下腿重量26gの模型を作成した。大腿部と下腿部を接続し、間に膝蓋骨に見立てた滑車を設置した。下腿部着力点は滑車の直下に15度の外側角をつけて糸を固定。大腿部は中枢部末端を着力点とし滑車を設置した。大腿部を水平にした90度屈曲位から大腿部着力点よりタコ糸と重錘を用いて下腿部を牽引した。牽引重量は50g、100gとして、それぞれ試行した。【説明と同意】 本発表において膝蓋骨摘出患者の写真を用いることについて、本人に書面にて説明し同意を得た。【結果】 50g、100gの重量にて牽引したが、両者とも全く動かなかった。膝蓋骨に見立てた滑車を垂直方向に6cm上に設置したとき、50gの牽引重量で完全伸展が可能となった。【考察】 実験結果のとおり、付着部が運動軸に近い場合、滑車を設置してもロックされて伸展は起こらない。伸展機構に対して従来とは異なる解釈が必要なことが示唆された。以下、伸展機構を、演繹論を用いて考察する。はじめに解釈に必要な事実関係を確認する。大腿骨顆部は螺旋形で内側と外側で曲率半径が異なる。同部の前後方向に沿った長軸は内側顆では中心線よりやや外側に開いている。また大腿顆部は前額面では外側を頂点とし内側を底辺とした円錐とみなせる。内側半月板はC型、外側はO型。Q角の存在と終末強制回旋運動。伸展位からの初期屈曲時の下腿の内旋。など。以上から次のように演繹される。螺旋形はネジであり、その形状は回転要素が元来組み込まれている。外側半月板はO型であることから球体を置くことに都合がよく、安定した支点を提供している。C型形状は自転車競技のバンクの傾斜のように滑走に都合がよい。したがって、外側は回転、内側は滑走が主となる。コンパスで円を描くように、大腿骨顆部は互いに脛骨接触面を変更しながら外側を支点に内側が滑走することが演繹される。筋群の走行ベクトルや起始、停止部には位相差がある。この差は、牽引力が直線的に下腿を引き上げるのではなく、Q角が示すとおり、下腿を外方向に回すためのベクトルへと変換されることに現れている。すなわち、ネジを締めるように、力が螺旋面に応じた回転方向に誘導される仕組みである。螺旋形状の関節はネジであり、その相対面上の運動は回転を伴う。【理学療法学研究としての意義】 関節可動域の維持、拡大や関節の操作を重要視する徒手療法において、今回の知見は膝関節のみならずその他の関節の操作を行う上で新たな視点を導入し、今後の技術発展に寄与しうるものと考える。また今回、演繹的な考察を行った。吉田(1999)によると演繹論は命題を立てる段階でその合目的的意味や存在の意味を充分に考慮し、各階層における用件の一致性を前提として論を進めつつ、実験・観察から得られた結果とも照合して考察する。そして事実を統一的に説明するモデルを形成し、それが実態、あるいは自然界と一致するまで理論を確定させていく科学的方法論であると定式化され、帰納論が優位となっている臨床科学に演繹確定という新たな機軸を導入している。理学療法の臨床分野では帰納的な研究を行うことは容易ではなく、演繹的推論方法を用いた研究が今後重要になってくると思われる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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