理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
人工膝関節置換術前後における運動イメージの変化と影響を及ぼす因子
板東 正記森田 伸有馬 信男山本 哲司山田 英司森岡 周
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p. Cc0373

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抄録
【はじめに、目的】 日々の臨床において、人工関節置換術後症例から「足の動かし方が分からない」「自分の足ではないような気がする」などの運動イメージの低下を疑う発言を多く聞く。また術後歩行において下肢アライメントが改善されているにも関わらず術前のパターンが残存し、影響を及ぼすこともある。筋力や可動域といった量的な訓練がパフォーマンス改善に直接有効ではないとされている。本研究は、1.人工膝関節置換術前後において運動イメージ能力を比較すること、2.運動イメージ能力の低下に関係する因子を検討することを目的とした。【方法】 対象は当院にて手術適応となった変形性膝関節症症例31例(平均年齢75.0歳,男性6名,女性25名)とした。なお,認知症や中枢神経疾患を有する者は対象からは除外した.運動イメージの評価にはKinesthetic and Visual Imagery Question(以下KVIQ)と Mental Chronometry(以下MC)を使用した.KVIQは検査者が被験者の前で模範となる運動を見せ,被験者が運動を一度だけ実行する.その後,閉眼にてその運動のイメージ想起を行う.KVIQでは,一人称イメージである筋感覚イメージと三人称イメージである視覚イメージの程度をそれぞれ検査し,そのイメージの明瞭度および強度を5段階で評価した.全10項目中,膝関節の項目のみをアウトカムとして用いた.MCは自由速度での10m歩行を課題とした.その内容は,まず安静座位にて,10m歩行をイメージ想起によって,実施し,その所要時間を測定した.次に実際の歩行時間を測定した.イメージ時間から実際の実行時間を除し,その値から1を引いた値の絶対値を求め,両者の一致率の指標とした. それぞれ術前,術後1週,術後2週目に測定した.統計学的解析は一元配置分散分析を用い有意水準は5%とした.次に運動イメージ能力に影響を及ぼす要因を検討するために,身体機能として術側膝伸展筋力,術側膝関節可動域,深部感覚,JOA score,疼痛(安静時・歩行時),転倒恐怖スケールを検査測定し,これらを独立変数にKVIQおよびMCをそれぞれ従属変数としたモデルを作成し重回帰分析を施行した.ステップワイズ法を用い,交絡因子として年齢,BMI,非術側膝伸展筋力,非術側膝関節可動域を強制投入するモデルを使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいて施行されており,対象者には本研究の目的と起こり得るリスクを説明し紙面にて同意を得た.なお、香川大学倫理委員会にて承認を得た。【結果】 KVIQ視覚イメージは術前より3.7±0.6,3.1±0.7,3.8±0.8となり術前と術後1週ならびに術後1週と術後2週で有意差を認めた.KVIQ筋感覚イメージは術前より3.3±0.7,2.5±0.8,3.6±0.8となり術前と術後1週,術後1週と術後2週に有意差を認めた.MCは術前より0.17±0.1,0.44±0.28,0.28±0.2となり術前と術後1週,術後1週と術後2週に有意差を認めた.重回帰分析の結果,KVIQ視覚・筋感覚イメージともに単変量解析にて抽出された変数として,膝関節可動域,歩行持痛,膝伸展筋力があり,ステップワイズ法の結果,膝関節可動域が抽出された(β=0.435 , p=0.01)(β=0.548 , p<0.01).交絡因子投入後のモデルにおいても同様の結果となった.MCの項目では事前の単変量解析にて抽出された変数として,膝関節可動域,歩行時痛,膝伸展筋力,転倒恐怖スケール,JOAscoreがあり,ステップワイズ法の結果,歩行時痛(β=-0.477 , p=0.01),関節可動域(β=-0.450 , p=0.01),転倒恐怖スケール(β=0.278 , p=0.01)が抽出された.交絡因子投入後のモデルにおいても同様の結果となった.【考察】 KVIQ,MC共に術後1週に低下を認めた.このことは人工膝関節置換術術後症例において運動イメージ能力が低下していることが示唆された.また術後1週において著明に低下したことから短期間の不動化でも運動イメージを低下させることが示唆された.一方,術後2週で運動イメージ能力の改善を認めることも分かった.運動イメージ能力に影響する因子としてはKVIQでは関節可動域,MCでは関節可動域,歩行時痛,転倒恐怖スケールが抽出された.これにより関節可動域の減少による活動性低下,歩行時痛の予期,転倒恐怖スケールで反映される認知的側面が影響することが示唆された.またKVIQとMCでは異なる因子が抽出され,それぞれ異なった因子がイメージ生成の特性として反映された.この結果は,理学療法の臨床において,運動イメージ評価にすでに用いられているKVIQとMCの特異性を示すものとなった.【理学療法学研究としての意義】 人工膝関節置換術後症例において運動イメージ能力が低下することが示唆され、運動イメージの評価においても多方面からのアプローチが必要である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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