理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
当院における創傷を有する重症虚血肢患者の在院日数の影響因子の検討
松本 純一久保 和也村田 健児小谷野 貴博井澤 克也伊藤 勝大橋 聡子山崎 知美寺部 雄太
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キーワード: 重症虚血肢, 創傷, 在院日数
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p. Db0551

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抄録
【はじめに、目的】 重症虚血肢(CLI)は末梢動脈疾患の最重症型であり、様々な合併症を有し、下肢の予後だけでなく、生命予後も不良となる疾患である。CLI症例は臨床において疼痛等によりADL低下をきたしている印象を受ける。当院では平成21年4月よりCLI症例の術後早期からのリハビリテーションを実施しており、早期離床、ADL向上目的に介入する際、入院期間が長期にわたる症例が存在した。今回、在院日数が長期化する因子を分析し、リハビリテーション分野においてどのような対応が可能かを検討することとした。【方法】 対象は平成21年4月から平成23年10月に当院循環器科にCLIと診断され、治療後リハビリテーションを実施した40例中37例(死亡例を除く)とした。年齢、性別、Body Mass Index(BMI)、閉塞動脈(浅大腿動脈領域:大腿部と前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈の下腿3枝領域:下腿部とに分類)、術式、創傷部位(前足部と後足部とに分類)、入院時の患肢皮膚灌流圧(SPP)と上腕足関節血圧比(ABI)、入院時C反応性蛋白(CRP)、白血球(WBC)、術後患肢SPPとABI、CRP、WBC、合併症の有無(慢性腎不全による人工透析施行、糖尿病、高血圧、脳血管障害、整形外科的疾患、膠原病)、入院時と退院時の歩行状況(可能、不可能の2群に分類)、転帰(自宅退院と転院)、疼痛の有無について診療録より後方視的に調査した。在院日数の中央値27日を基準に退院順調群(順調群)と退院遅延群(遅延群)との2群に分類した。2群間の年齢、性別、BMI、入院時ABI、SPP、CRP、WBC、術後ABI、SPP、CRP、WBC、転帰、疼痛の有無について対応のないt検定、Mann-whitney U検定を用いた。閉塞動脈、創傷部位、合併症の有無、入院時歩行状況、退院時歩行状況についてはχ2検定を用いた。順調群と遅延群を従属変数とし、25%未満の項目を抽出し、多重ロジスティック回帰分析を実施し、オッズ比(OR)並びORの信頼区間(CI)を算出した。有意水準は5%未満とした。統計解析には統計ソフトRを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は後方視的研究のため、匿名化された既存のデータを使用し検討を行った。また、当院内の倫理委員会の承認を受けた。【結果】 全対象では在院日数平均33.2±26.2日で中央値は27日であった。術式は血管内治療のみ25例、末梢血管バイパス術のみ2例、大切断術のみ1例、血管内治療+小切断術2例、血管内治療+内膜剥離術1例、末梢血管バイパス術+腐骨摘出術2例、血管内治療+大切断術1例、末梢血管バイパス術+小切断術1例であった。自宅退院率は62.2%であった。順調群18例(平均在院日数15.83±4.73日、平均年齢70.7±8.58歳、男性11例女性7例、自宅退院率61.1%、入院時歩行不可72.2%)、遅延群19例(平均在院日数49.6±27.7日、平均年齢69.6±10.0歳、男性15例女性4例、自宅退院率63.2%、入院時歩行不可68.4%)であった。対応のないt検定とMann-whitney U検定の結果、独立変数としてBMI、術前CRP、脳血管障害の既往、大腿部の閉塞、下腿部の閉塞、後足部の潰瘍の5項目が挙げられた。多重ロジスティック回帰分析の結果、遅延因子は脳血管障害の既往がある(OR=60.98,CI:2.45-1.96,P<0.05)と術前CRP(OR=1.34,CI:1.05-1.90,P<0.05)であった。【考察】 本研究の結果からは脳血管障害の既往と術前CRPが在院日数の遅延因子となった。寺師らは糖尿病性足病変において、創傷の感染は重篤な合併症を惹起するため、感染のコントロールを行うことの重要性を述べている。術前CRP値には有意差が認められ、術前からの炎症の徴候は遅延因子と考える。リハビリテーションを実施する際には、術後の血液データだけでなく、術前CRPの情報収集も行う必要があり、術前介入を行う際には患肢の炎症及び感染を拡大させないよう、患部の安易なアプローチは避ける必要がある。炎症及び感染拡大のリスクがないことを確認して行く必要がある。脳血管障害の既往に関しては、既往があると在院日数が短いという結果となったが、これは対象に転院例を含んだためと考えられる。本研究はCLI患者が対象であり、身体機能や社会的背景などバイアスが大きいと考える。今後より詳細の調査が必要であり、今後の課題としたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究はCLI症例の在院日数を延長させる因子について検討し、術前CRPが遅延因子となりうることが示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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