理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
嚥下機能に対する最長呼気持続時間測定の有用性
大森 幸美
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キーワード: 呼吸, 嚥下, 筋力強化
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p. Db0565

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抄録
【はじめに、目的】 嚥下の通路である咽頭は,呼吸と発声の通路にもなっていることから,嚥下と呼吸は密接な関係にあり,協調性については多くの研究がなされている. Edger,J.ら多数の報告により嚥下前後の呼吸相が呼気であると言われていることから, 嚥下と呼気の関係に着目し,嚥下機能と呼吸機能を反映するとされている最長呼気持続時間測定の有用性について報告してきた.嚥下のスクリーニングである反復唾液嚥下テスト(Repetitive saliva swallowing test:以下RSST), 改訂水飲みテスト(modified water swallowing test:以下MWST),聖隷式嚥下質問紙の咽頭期を反映する項目との相関が見られた.また,嚥下障害なしと判断できるカットオフ値は,6秒以上との結果であった.嚥下と呼気に関係性があるのであれば,呼気トレーニングを実施することで,嚥下機能も向上すると考え,簡易な呼気トレーニングを実施,その効果について検討した.また,最長呼気持続時間のカットオフ値が嚥下障害判定に有用か調査したので報告する.【方法】 当苑、通所リハ利用者26名(男性6名,女性20名,平均年齢83.92±6.37歳,介護度2.12±0.952,改訂長谷川式簡易知能評価スケール:以下HDS-R 13.65±7.08)を対象とした.呼気トレーニングは安価で,高齢者がなじみやすい物である風車と吹き戻しを使用し,週2回,1日1回5分づつ,15週間実施した.呼吸機能評価として, 鼻咽腔閉鎖不全の検査である最長呼気持続時間, 最長呼気持続時間と関係性が高く,喉頭機能を反映するとされている最長発声持続時間をトレーニング前と15週後に測定した.最長呼気持続時間測定方法は,ストローでコップの水(100ml)をブローイングした時間を計測した. 測定時「しっかり吸って,できるだけ長くストローに息を吹く」という統一した声かけとし,実施できた方を対象とした.3回実施し,最大値を採用した.嚥下機能検査は,MWSTを実施.各測定肢位は,食事姿勢である椅子座位で行った.トレーニング効果を見るため,Wilcoxonの符号付順位検定,各項目の関連性はPearsonの積率相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした. 最長呼気持続時間のカットオフ値が嚥下障害判定に有用かを調べるため,最長呼気持続時間6秒以上を呼気良好群,6秒未満を呼気不良群とし,対応のないt検定を実施した.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に研究内容と倫理的配慮について説明し,文書にて同意を得た上で実施した.【結果】 最長呼気持続時間が7.32±4.34秒から9.02±4.97秒(p<0.01),最長発声持続時間は, 7.53±4.83秒から9.00±5.03秒(p<0.05),MWST5.81±1.13から6.04±0.10(p<0.05)となり,有意な改善を示しトレーニング効果が見られた.最長呼気持続時間と相関があったのは,最長発声持続時間(r=0.735),MWST(r=0.536)であった. 年齢,性別,介護度,HDS-R,体重,呼吸数との有意差は認められなかった.呼気良好群は呼気不良群と比較し,有意にMWSTが良好であるという結果であった.【考察】 呼気トレーニングにて,呼気持続時間が増加し,MWSTが改善したことから嚥下能力の向上がみられたと考察した. これは,口腔気流により鼻咽腔が反射的に閉鎖され, 鼻咽腔閉鎖に関わる迷走神経や口蓋帆張筋,口蓋帆挙筋,口蓋咽頭筋,口蓋舌筋,口蓋挙筋などの機能を改善させたためと思われる. 近年,嚥下機能向上を目指した,Thresholdなどの器具を使用した呼気トレーニングが注目されているが,身近にある安価な物を使用することでも,呼気機能強化の可能性が示唆された.呼気良好群の嚥下機能は呼気不良群と比較して全体的に高値を示した.カットオフ値6秒に設定し,有意差が見られたことから,呼気トレーニングの呼気持続時間の目安としても使用できる可能性があると考察した.今回は,口腔内圧ではなく呼気持続時間に着目しトレーニングを行ったが,佐野らによると,口すぼめ呼吸では,少なくとも4cmH2O前後の口腔内圧が,株式会社ルピナスの調査によると吹き戻しは17cmH2Oの口腔内圧がかかるとしている.嚥下に効果的な口腔内圧の報告は見当たらなかったが,今回の結果からいえば,低い口腔内圧で嚥下能力を向上させることができると考えられた.今後更なる検討が必要である.【理学療法学研究としての意義】 簡易呼気トレーニングの効果は, 呼気持続時間が増加し,嚥下能力向上にも効果が示唆されることから意義があると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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