抄録
【目的】 肺切除術後の呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)では、術後呼吸器合併症の予防と早期社会復帰を目標に、早期より離床を図り運動療法を行うが、その際に低酸素血症を生じ、酸素投与もしくはその増量が必要な症例が散見される。一方、肺癌手術症例の研究において、術前評価や術後合併症に関する報告は多いものの、安静時の評価が多く、運動時の低酸素血症に着目した研究は少ない。本研究の目的は、肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術(VATS lobectomy)を施行し呼吸リハを実施された患者において、術後早期の運動時低酸素血症に影響を及ぼす要因の検討と、運動時低酸素血症が認められた症例の術後経過を明らかにすることである。【方法】 対象は、2005年6月から2011年9月までに、当院で肺癌に対しVATS lobectomyを施行され、術前より呼吸リハを施行された214例(男性141例、女性73例、平均年齢69.6±10.3歳)とした。呼吸リハは、術前は評価とオリエンテーションを行い、術後は術翌日より離床し、術後2日目より退院時まで2回/日運動療法を行った。6分間歩行試験(6MWT)は、術前、術後近接期(POD2)、退院時に実施し、パルスオキシメーターで心拍数とSpO2をモニタリングした。6MWT実施前後のSpO2により、開始時より4%以上低下した場合をdesaturationありと定義した。患者背景[年齢、BMI、血清Alb、Charlson comorbidity index、Performance Status、MRC息切れスケール(MRC)、動脈血ガス、肺機能(スパイロメトリ)、予測残存肺機能]および術後経過[術後合併症、術後離床開始日、術後在院日数]をカルテより調査した。POD2の6MWT時にdesaturationを生じた例を低下群、生じなかった例を非低下群の2群に分類し、患者背景および術後経過について2群間で比較した。連続変数をWilcoxon検定で、名義変数をカイ二乗検定およびFisherの正確検定を用いて検討した。また、単変量解析にてp<0.2の変数を説明変数として、多重ロジスティック回帰分析を行い、危険率5%を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、対象者全員に十分な説明を行い、同意を得て評価および呼吸リハを実施し、倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。また、当院の研究審査委員会の承認を得た。【結果】 POD2の6MWT時にdesaturationがあった症例は、80例(37.4%)であった。低下群、非低下群の2群間の患者背景の比較において、単変量解析で、MRC≧2(p=0.003)、術前肺機能(%FVC<80%;p=0.020、%FEV1.0<80%;p=0.020)、術後予測肺機能(%ppoFEV1.0<40%;p=0.041)、術前6MWT時のdesaturationの有無(p<0.001)で有意差を認めた。多変量解析の結果は、%FVC(OR=2.80,95%CI:0.01~1.05,p=0.048)、術前6MWT時のdesaturationの有無(OR=5.06, 95%CI:0.30~1.40,p=0.003)となった。術後経過の比較では、術後合併症発生率、術後離床開始日、術後在院日数、退院時の運動耐容能回復率のいずれも有意差はなかった。【考察】 今回の検討より、肺癌に対するVATS lobectomy患者において、術前の%FVCと運動時desaturationの有無が、術後早期のdesaturationを生じる有意な独立因子であった。また、術後desaturationの有無に関わらず、早期離床獲得し、運動耐容能も同等に回復でき、退院できていた。【理学療法学研究としての意義】 術後早期より運動療法を施行する上で、運動時の低酸素血症を生じうる要因が術前の%FVCと運動時のdesaturationであるため、運動負荷試験を含む術前評価でhigh-risk症例を把握し術後理学療法においてそのような患者は充分注意しながら運動療法を施行するべきであることが示された。