抄録
【はじめに、目的】 呼吸介助法は換気量の改善を主目的とした呼吸理学療法の一手技として位置づけられている。この手技は、直接患者の胸郭に触れるため、リスクを考慮すると一定レベルの習熟度が求められ、手技の優劣が治療効果として現れやすいことから、呼吸リハビリテーションに関わる研修会や講習会において、呼吸介助法の実習の時間が設けられている。しかし、呼吸介助法の熟達度判定は客観的な評価基準や評価法がなく、主観に頼っていることが多い。そこで我々は、これまでに呼吸介助法の習熟度を評価する習熟度評価表を作成し、定量的評価を試みた。その結果、呼吸介助法の経験年数と習熟度評価表の点数の間に相関が認められ、経験年数3年を境に手技に差が生じることを報告した(第16回日本呼吸管理学会)。また、この習熟度評価表を用いて評価判定する際には検者の経験年数によって信頼性に差が生じた。特に手掌全面接触の評価項目については検者の経験年数に関係なく信頼性が低くなり、各項目の判定方法が0~10で10を最も良いと判定する数値的スケールであることも問題点として示唆された(第20回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会)。今回、これまでの習熟度評価表の問題点について改良を加え、習熟度評価表を作成する目的で検者間における信頼性(一致度)を検討したので報告する。【方法】 呼吸介助法習熟度評価表を用い、被験者を呼吸介助法の経験が3年以上(40~160か月)ある長崎大学千住研究室の研究生10名を対象に、検者を呼吸理学療法に専ら従事し、呼吸介助法の経験が豊富で指導にあたっている全国各地区の理学療法士6名で評価した。習熟度評価表は、1.手掌全面接触、2.用手接触部位の適否、3.圧迫の強さ、4.方向性、5.タイミング、6.痛み・不快感、7.次回もこの手技を行ってほしいかの7項目で、1~7の項目においては、良または不十分の2段階、7の項目は、してほしい、どちらでもない、練習が必要、非常に練習が必要の4段階で判定するものである。評価過程は、被験者が各検者に対し側臥位での呼吸介助法を実施した。被験者と検者の組み合わせは無作為とし、評価中は検者が被験者を特定できないよう目隠しし会話を禁止した。統計処理は、各評価項目において6名の検者間で評価結果の一致度をみるためにCohenのκ係数を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者、検者の両対象者には研究内容の主旨、内容の説明を十分に口頭にて行い、同意を得た後に実施した。【結果】 各項目のκ係数は、1:0.535、2:0.946、3:0.485、4:0.790、5:0.845、6:0.739、7:0.479であった。この結果より、一致度がexcellent(高い一致)の項目は、2.用手接触部位の適否、5.タイミング、good to fair(かなりの一致)の項目は、4.方向性、6.痛み・不快感、moderate(中等度の一致)の項目は、1.手掌全面接触、3.圧迫の強さ、7.次回もこの手技を行ってほしいかであった。【考察】 習熟度評価表の各評価項目は、実施上の注意点として成書に記載された指導するうえでのポイントとなっている項目で構成されている。今回、改編した習熟度評価表の信頼性は、用手接触部位の適否、タイミング、方向性、痛み・不快感の4項目においては一致度が高く、信頼性が認められた。しかし、手掌全面接触、圧迫の強さ、次回もこの手技を行ってほしいかの3項目については一致度が低かった。原因として、この3項目は手技を受ける側の好み的な感覚に左右される要素が強いためではないかと考えられた。以上のことから、呼吸介助法習熟度評価表の使用にあたって用手接触部位の適否、タイミング、方向性、痛み・不快感の項目については信頼性が高い評価として使用可能であることが示唆された。しかし、手掌全面接触、圧迫の強さ、次回もこの手技を行ってほしいかの項目は、臨床の場面では対象者に直接尋ねながら注意して手技を施行することが重要である。また、この3項目における評価の判定内容の再検討や習熟度評価表と換気量などの客観的指標との関係も含めた検討が今後の課題として挙げられた。【理学療法学研究としての意義】 呼吸介助法習熟度評価表を用いて呼吸介助法を客観的に評価することは、手技の向上にともない、患者に実施するうえでのリスク軽減に寄与することが期待できる。