理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
思春期特発性側弯症肺機能についての検討
荒本 久美子中井 英人澄川 智子長谷川 美欧二田 真里子川上 紀明辻 太一鳥山 喜之
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p. Dc0390

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抄録

【はじめに】 脊柱側弯症は胸郭変形や胸郭運動低下による肺容量減少の障害つまり拘束性換気障害を認めることがある.さらに矯正固定術をすることで開胸開腹場合により横隔膜切離が行われ術後肺合併症を引き起こす可能性がある.そのため当院では2002年12月より側弯症術後患者において周術期に呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)を導入した.諸家の報告では術後2年での%肺活量(以下%VC)改善には賛否両論あり、我々の調査では思春期特発性側弯症(以下AIS)患者において%VC改善が認められず、さらに呼吸リハ導入前後においても差が認められなかった.そこでAIS患者における肺活量変化について詳細に検討し、若干の知見を得たので報告する.【方法】 対象は2002年12月から2010年3月までに当院にてAISに対する矯正固定術を施行し、術前および術後2年に肺機能検査を実施可能であった135例とした.術前平均年齢14.7±1.7歳、身長155.1±6.1cm、体重44.7±6.2kg、Cobb角59.3±14.1(31-121)度、術後Cobb角17.0±6.4(4-36)度、手術による矯正率は70.5±12.3%であった.術後リハビリテーションは早期社会復帰、ADL学習、ホームエクササイズ学習の3点を目的に実施している.術後ドレーン抜去と同時に体幹装具を作製し、出来上がり次第術後約1週で体幹装具装着にて離床となる.術後呼吸リハはベッドサイドより肩関節運動を伴った胸郭改善運動、インセンティブスパイロメトリを実施し、離床後は胸郭の可動性を目的にプーリー、持久力トレーニングとしてトレッドミル歩行練習を随時追加した.また各運動間にインセンティブスパイロメトリを実施した.退院後もホームエクササイズを実施するよう患者および家族に指導した.体幹装具は術後3ヶ月間入浴時以外終日装着し術後6ヶ月間体育授業への不参加、運動部禁止等の運動制限を与えた.肺機能検査はスパイロメトリを実施し、1秒率(以下FEV1%)、肺活量(以下VC)、一秒量(以下FEV1)、一回換気量(以下TV)、予備吸気量(以下IRV)、予備呼気量(以下ERV)を測定し、%VCは得られたVCと河野らによる側弯症患者の身長補正式より補正身長を求め、PolgerのVC予測式に補正身長を代入しVC予測値を求め算出した.全対象を手術アプローチ別に前方矯正固定術(以下A群)、後方矯正固定術(以下P群)、前後矯正固定術(以下AP群)の3群に分類し術前後での%VC、FEV1%、VC、FEV1、TV、IRV、ERVの値を各群間で比較した.統計処理にはWilcoxon符号付順位和検定を用い有意水準5%とした.【説明と同意】 本研究内容と個人情報保護に基づきデータ使用を本人および家族に説明し書面にて同意を得た.【結果】 A群において矯正率は64.4%で術前→術後2年の順に%VCは90.0→87.7、EFV1%は89.4→90.0、VCは2.89→2.82、FEV1は2.55→2.52、TVは0.57→0.53、IRVは1.23→1.16、ERVは1.06→1.13と有意差を認めず、P群において矯正率は70.8%で%VCは80.8→81.1、EFV1%は87.9→89.5、VCは2.61→2.65、FEV1は2.27→2.34、TVは0.53→0.49、IRVは1.12→1.08、ERVは0.95→1.08とFEV1%、VC、TV、ERVで有意差を認め、AP群において矯正率は76.2%で%VCは80.3→82.2、EFV1%は88.8→90.3、VCは2.45→2.54、FEV1は2.15→2.26、TVは0.57→0.49、IRV1.12→1.15、ERV0.76→0.90と有意差を認めなかった.【考察】 結果より肺機能は%VCでは不変、FEV1%では改善傾向であり、肺気量はVCでは不変、FEVでは増加、TVでは低下傾向、ERVでは増加傾向、IRVではほぼ一定であった. FEV1%は改善傾向に思われるがFEVは増加しているもののVCが不変のため見かけ上の改善に過ぎないと考えた.脊柱側弯症は拘束性障害を伴うという報告はあるものの、今回の症例は術前平均%VCが3群ともに80%以上であり拘束性換気障害の問題は低いと考えた.一般にVCを上げるには腹筋や胸郭周囲筋筋力増強、持久力向上、良肢位指導、高負荷吸気運動等が挙げられ、TVを上げるには胸郭柔軟性の向上、腹式呼吸の遂行、持久力向上が挙げられる.不変であるVCはTV、ERV、IRVを構成要素に持ち、TVは低下傾向、ERVは増加傾向、IRVはほぼ一定であり%VCを上げるにはTVを増加させる必要がありそうだ.手術により横隔膜切離した症例は横隔膜呼吸が困難な可能性がありベッド上安静となる術後早期から横隔膜を用いた腹式呼吸を実施する必要がある.現在使用しているインセンティブスパイロメトリでは吸気時の負荷が小さいため今後トレーニング方法を検討する必要がある.また退院後のホームエクササイズ実施状況を確認し患者のモチベーションを上げるような工夫が課題に挙げられる.【理学療法学としての意義】 AIS術後患者の肺気量を調査し術後TV低下傾向があることを認め、術後早期より横隔膜呼吸の習得が必要であると考えた.現在拘束性換気障害に至っていない症例に対し将来を見据えた上で、%VC改善には今後吸気トレーニング方法と腹式呼吸の見直しが課題である.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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