理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
糖尿病患者における歩行特性と足底にかかる力学的負荷量の検討
佐々木 陽平林 久恵小中 真由美太田 進伊藤 真也鬼頭 麻有近藤 恵理子伊藤 沙夜香渡井 陽子森山 善文古橋 究一熊田 佳孝
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p. De0037

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抄録
【はじめに、目的】 糖尿病性足部潰瘍を引き起こす1つの要因として、足部に対する力学的負荷(mechanical stress)がある。力学的負荷は、地面と垂直に作用する力(Vertical Pressure: 以下VP)と地面と平行に作用する力(Horizontal Force: 以下HF)で構成され、両者が複合的に作用することで、局所に負荷が集中し、潰瘍形成リスクが高くなる可能性が示唆されている(Load M et al, 2000)。しかし、測定器が普及しているVPに関しては多くの先行研究が存在する一方、HFに関しては独自(custom-build)の測定機器を用いた検討に限られており (Yavus M et al, 2008. Mackey JR et al, 2006. Load M et al, 2000.)、HFの特性については不明な点が多い。また、力学的負荷量の検討にあたっては、糖尿病患者の快適歩行速度は健常者と比較し低下しているという歩行特性を考慮する必要があると考える (Wrobel JS et al, 2010)。そこで本研究では、国内で普及している床反力計を用いてHFを評価し、歩行速度を変化させた際に糖尿病の有無によってHFの変化にどのような特徴がみられるかを検討することを目的とした。【方法】 対象者は名古屋共立病院の入院・外来患者および職員とし、5m以上連続歩行可能な者とした。潰瘍形成を認める者、大切断の既往がある者、下肢の重度の変形がある者、重度の虚血が認められる者(足関節上腕血圧比:ABI<0.7)は除外した。適格基準を満たす糖尿病患者13名(DM群:61±8歳)、糖尿病のない者7名 (CON群:64±9歳)を対象とした。測定は被験者の主観に基づき3通り(ゆっくり、いつも通り、早歩き)の条件を設定し、それぞれの条件で2回練習した後、50cm四方の歩行床反力計AccuGait(AMTI社製)を右足で踏む際の力学的負荷量をサンプリング周波数60Hzにて測定した。測定は2回ずつ行い、2回目のデータにおいて HFを前後成分と左右成分に分け、それぞれに対して(1)負荷時間との積分値(Force Time Integral:以下FTI)、(2)前後あるいは左右へのピーク値の差(Peak to Peak: 以下PtP)を抽出した。データの抽出は動揺解析システムToMoCo-FPm(東総システム社製)を用いた。統計解析にはSPSS ver. 16.0を用い、群間での比較をMann-Whitney’s U test、歩行速度を変化させた際の比較をWilcoxon signed rank testにて行った。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究の目的と内容の説明を行い、紙面にて同意を得た。本研究は名古屋大学生命倫理委員会の承認 (承認番号: 11-502) および名古屋共立病院倫理委員会の承認を得て行った。【結果】 DM群では、(1) FTIの前後成分は「ゆっくり」に比較し、「早歩き」において有意に小さくなり(36.2Ns vs. 29.0Ns ; p=0.01)、(2) PtPの前後成分は「ゆっくり」に比較し、「早歩き」において有意に大きくなり(192.7N vs. 237.7N : p=0.02)、左右成分についても同様に(49.0N vs. 81.1N : p=0.02 )大きくなった。両群間の比較では、いつも通りの速度で歩行した場合においてCON群と比較して、DM群では左右成分の(1)FTI (7.7Ns vs. 13.2Ns : p=0.01)、(2)PtP (38.2N vs. 66.1N : p=0.001) が有意に大きくなった。【考察】 本研究ではHFにおいて、歩行速度を上昇させるとFTIは小さくなりPtPは大きくなることが確認され、特にDM群では前後成分と左右成分の双方で歩行速度に依存する顕著な変化が観察された。これは、糖尿病患者が歩行速度を変化させることにより容易にHFが変化し、足底への力学的負荷が高まることを示唆するものである。歩行速度の変化に関しては、Burnfield JMらはVPにおいて歩行速度を上昇させた際に積分値は小さくなり、最大値は大きくなることを報告している。これは本研究において歩行速度を上昇させた際にFTIが小さくなり、PtPが大きくなったことと類似している。また、Yavuz Mらはcustom-buildの測定機器を用いて、足部潰瘍形成リスクの高い糖尿病神経障害患者ではHFのFTIやPtPが大きくなることを報告しているが、本研究では群間での比較において、神経障害のない対象者を含む糖尿病群においても同様の評価指標が大きくなり得ることが解明された。【理学療法学研究としての意義】 糖尿病性神経障害を持たない糖尿病患者においても、足底にかかる力学的負荷量が変化し得ることが確認されたことによって、糖尿病患者に対する足部の管理の重要性を示すことができた。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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