理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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新人理学療法士セッション ポスター
心疾患を有する超高齢大腿切断症例に対する理学療法の一経験
─病態を踏まえた運動負荷設定に着目して─
海江田 武竹岡 亨稲岡 秀陽
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キーワード: 高齢者, 心疾患, 大腿切断
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p. Df0858

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抄録
【はじめに】 高齢社会が進む中で、心疾患や糖尿病などの内部疾患を有する高齢者は増加の一途を辿っている。臨床場面でも、内部疾患を既往に持つ高齢者を担当する機会が増えており、様々なリスクを考慮した上で、理学療法プログラムを作成することが求められている。しかし、重度心疾患を持つ超高齢者に対する運動負荷の設定に関しては、十分な知見が得られていない。今回、重度の心疾患を有する高齢切断患者を担当し、運動負荷の設定などに難渋した症例を経験したのでここに報告する。【症例紹介】 本症例は、右下肢動脈塞栓症発症後、右大腿切断となった96歳の女性である。既往に、心不全(NYHAIII)、重度の認知症、両側大腿骨頚部骨折があり、施設入所中であった。入院前のADLは、食事以外のセルフケアに重度介助を要しており、車いすやトイレへの移乗動作の際にわずかに両下肢にて体重支持ができるレベルであった。【同意と説明】 本研究は医療法人同仁会(社団)京都九条病院倫理委員会の承認を得て行った。【経過】 右下肢動脈塞栓症の診断後、薬物治療が2週間程度行われたが、右下肢の皮膚色やチアノーゼの改善認められず、入院から3週間後に大腿部切断術が行われた。理学療法は、術後翌日から開始したが、BUN値は20mg/dL前後であり、全身状態悪化のリスクは高い状態であった。また、総蛋白は、5.5g/dl程度と低く、赤血球や血色素量、ヘマトクリット値も低値であり、貧血傾向も強かった。そのため、アンダーソン・土肥の基準や、AHA exercise standardなどを指標に、バイタルサインに注意しながら、理学療法を実施した。術後1日目よりギャッチアップによる座位練習を開始し、術後3日目で端座位を、術後5日目には車椅子乗車しての離床が可能となった。この時期の理学療法施行中の血圧は110~120/60~70mmHg、心拍数は70~90bpm程度と安定していた。術後2週目では、前方・側方へのリーチ動作など車椅子生活を想定した練習を施行した。また、立位保持練習も並行して実施していたが重度の認知症、廃用性の全身筋力・持久力の低下により十分な参加が得られず全介助を要していた。しかし、術後2週目を過ぎた頃から下痢となり、血清カリウムは3.5mEq/L程度まで低下した。術後20日目には、敗血症、DICショックを呈し、状態急変となる。血圧の下降、四肢の冷感・浮腫、チアノーゼ、意識障害などの心原性ショックの症状を呈し、治療行うが状態の改善認めなかった。【考察】 本症例は、高齢であり重度の認知症も有していたため、動悸などの自覚症状の確認が困難であり、心不全の運動療法の相対禁忌に分類される。また、AHA exercise standard 改変によるリスクの層別化ではクラスCであり、活動レベルに関して運動処方を作成し個別化する必要があった。そのため、理学療法実施にあたりアンダーソン・土肥の基準に基づいて、運動療法の中止や休止となる血圧値、脈拍数、自覚症状などを使用した。また、高齢者は多疾患を持つが、症状が出にくいことが特徴と言われている。そのため、症例の病態から想定される生体反応に着目し、心肺機能評価を行い心拍数予備能力と併用しリスク管理を行った。本症例の特徴的な病態として、下肢切断に伴う静脈環流量の増大が考えられた。右心負荷が過剰になると肺水腫や下肢の浮腫などの右心不全所見が出現すると考えられた。しかし、右心不全の明らかな所見は認めず、切断による循環動態の変化に心臓が適応できていたと考えられる。また、心臓の循環動態に伴い反応する呼吸状態、血圧の変動、チアノーゼなどの所見の観察を合わせて行ったが、十分に把握できなかった。本症例は、上記のリスク管理により早期離床・車椅子座位の獲得が可能となり、ADL・QOLはさらに向上する可能性があったが、その後、全身状態が急変し、DICショック状態となった。今回、状態の急変までに著明なDIC所見は認めず、不顕性のDICであったと考えられる。不顕性のDICに関して、Song JWらやJong Hwa LeeらによるとISTH基準や血漿第XIII因子の活性の測定により早期発見できると報告している。今後、高齢切断患者のリスク管理として、病態に基づいた心肺機能の評価に加え、DICなどの全身循環動態に影響する疾患へのリスク管理の強化が必要と示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本症例に代表される、超高齢術後患者の多くは心疾患を有しており、病態に基づいた心肺機能評価など複数の評価指標を組み合わせることで、より実用的なリスク管理を行うことができると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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