抄録
【はじめに】 第44回日本理学療法学術大会において,我々は要介護高齢者の食事満足度を調査し,理学療法士が行う日常生活活動(Activities Of Daily Living:ADL)における食事動作へのアプローチが,食事の満足度に大きな影響を与えていることを明らかにした.今回は,満足度の特性に加えて対象者のADL能力や食事能力との関連に検討を加えた.【方法】 対象者は介護老人保健施設入所者,療養病棟入院患者のうち摂食・嚥下障害が無い者,または軽度で日常生活において経口摂食が可能であり,改定長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa dementia scale:HDSR)にて21点以上であった61名である.調査内容は食事満足度,機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:以下FIM),食事動作細項目評価を実施した.食事動作細項目評価はピラヤらの食事チェック表を使用し,食事場面における「食物形態」,「道具」,「道具の把持」,「すくい・つかみ」,「運び」,「道具と口の適合」,「食事への注意」,「むせ」,「座位の保持」,「自立度」について4点(正常)から,難あるが自立(3点),時々声かけ(2点),しばしば声かけ(1点),全介助(0点)の5段階で評価した.その他に食事場所,道具の使用状況や食事環境についての評価も行った.対象者は主成分分析で得られた主成分得点を変数としてクラスタ分析を行い4つのグループに分類した.グループ間におけるFIM,食事動作細項目評価結果を一元配置の分散分析を用いて比較検討した.すべての統計処理において危険率5%未満を有意水準とした.(SPSS15.0J使用)【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属大学の研究倫理委員会承認を得て実施され,対象者に対して本研究の目的と内容を説明し,書面での同意を得た上で実施した.【結果】 食事満足度を総合的特性に集約するため,主成分分析を行った結果,第1主成分は「疲労感」「リーチ」「姿勢」「道具の使用」,「嚥下」,第2主成分は「おいしさ」「食事の質」「食事量」,「楽しさ」「待ち遠しさ」,「明るさ」となり,これら2成分での累積奇与率は52.98%であった.第1主成分は「動作と嚥下能力」,第2主成分を「雰囲気や質」と命名した.主成分分析で求められた主成分得点を用いて,クラスタ分析を行ったところ4つのグループに分類できた.1つは両主成分とも正の値を示していたため「満足グループ」とし,2つ目は両主成分とも負の値であったため「不満足グループ」,3つ目は第2主成分のみ正の値であり「雰囲気・質満足グループ」,4つ目は第1主成分のみ正の値であることから「動作・嚥下満足グループ」と命名した.各グループの人数はそれぞれ12名,7名,22名,20名であった.グループ間におけるFIM合計得点は「不満足グループ」,「雰囲気・質満足グループ」が,「満足グループ」,「動作・嚥下満足グループ」と比較して有意に低かった.FIM得点の高低は動作と嚥下能力に満足しているか否かで,その高低が分かれていた.下位項目で検討を加えても,運動項目に関しては同様のグループ間に有意差を認め,その項目はトイレ動作,移乗車椅子,移乗トイレ,階段であった.認知項目についてはどのグループ間においても差は認められなかった.グループ間における食事動作細項目評価の結果は,「雰囲気・質満足グループ」が「把持」,「すくい」,「座位」,「自立度」の項目得点において「動作・嚥下満足グループ」より有意に低値を示した.しかし,その他のグループ間における有意差はなかった.また, BMI,性別,疾患名などの対象者プロフィールや食事場所,机や椅子の種類などの食事環境についてグループ間における有意差は見られなかった.【考察】 4つのグル―プのうち「動作や嚥下能力グループ」とそれ以外のグループ間には,移動や移乗能力の差が認められた.また,食事動作評価から「雰囲気・質満足グループ」と「動作・嚥下満足グループ」の間にだけ把持,すくい,座位,自立度の項目についての差があり,FIM下位項目得点でも食事,整容に差を認めた.これは,整容動作における手の動作自体が,食事動作とも類似していることを考えると,動作や嚥下能力を境にして,上肢,手指の機能や座位能力も食事の満足度に影響を与えると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究は対象者の主観的な評価として満足度を捉えることで,施設入所,療養入院において本当に高齢者にとって一番の楽しみとされている食事を実現する為に,理学療法士の効果的な食事動作指導や支援の方法の確立に寄与することが期待される.