抄録
【はじめに、目的】 当法人の在宅総合ケアセンターは、デイケアや訪問リハビリテーションサービスを利用している利用者に対して、年に1回一泊旅行サービスを提供している。そして、それと同時に旅行体験が脳卒中片麻痺者に与える影響についての研究も行っている。第46回日本理学療法学術大会では質的研究手法を用い、旅行が片麻痺者に与える影響として「再発見する自己の可能性」「精神的な充足感」「新たな目標と共に得られる希望」の3つの概念が存在している事を報告した。今回の研究目的は、質的研究より得られた概念から評価バッテリーを選定し、一泊旅行体験の効果について量的に検証していく事である。【方法】 対象者は、平成23年度に行われた当法人の旅行サービスに参加した利用者の中で研究の参加同意を得られたもの、かつMini-Mental State Examinationが25点以上獲得できる認知症のないもの7名である。利用者属性は平均年齢74.85±10.33歳の男性4名、女性3名、疾患は脳梗塞3名、脳出血2名、心不全1名、腰椎圧迫骨折1名であった。介護度は要支援1~要介護度3であった。評価法はE-SASの「生活のひろがり」「ころばない自信」「休まず歩ける距離」と、Apathy Scale(Starkstein)の翻訳版である「やる気スコア」を使用した。評価時期は、旅行の1~2週間前と旅行から約1ヵ月後の合計2回実施し、旅行前後の結果を比較・検討した。統計は、SPSS(ver. 17.0 )を使用し、前後の得点の比較をWilcoxonの符号付順位和検定にて行った。有意水準はp<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者に対し研究の主旨・方法・人権保護について口頭で説明し、同意を得た。【結果】 「生活のひろがり」「ころばない自信」「休まず歩ける距離」は統計的な有意差は認められなかった。「やる気スコア」は、前後の得点で有意差が認められた。また個別の得点を見ていくと「生活のひろがり」は、対象者7名中4名に向上が認められ、向上した4名中3名は当法人の旅行に初参加であり、障害を負ってから初めての旅行であった。「ころばない自信」は、全ての対象者の得点が旅行後に向上していた。「やる気スコア」は1名を除いた全ての対象者において得点が低下していた(意欲が向上していた)。「休まず歩ける距離」は、7名中3名の得点が向上し、4名は変化が認められなかった。【考察】 前回の質的研究より得られた概念から、旅行は、利用者に外出への自信と意欲の向上、前向きな思考をもたらすことが示唆された。今回は、それらを量的に再検証する評価バッテリーとしてE-SASの「生活のひろがり」「ころばない自信」「休まず歩ける距離」と、「やる気スコア」を選択した。「やる気スコア」には、有意差が認められ、旅行体験は生活意欲を高める可能性が示唆された。その他、「生活のひろがり」「ころばない自信」「休まず歩ける距離」については有意な差は認められなかったが、得点は向上傾向にあり、今後症例数を増やして再度検討していく必要があると考える。また、「生活のひろがり」では、障害を負ってから初めて一泊旅行に出掛けた対象者は得点が向上していたが、障害後も旅行経験がある対象者においては傾向が認められなかった。このことから、今後の課題として、受傷後の旅行経験や回数を考慮して効果判定を行っていく必要があると考える。今回の結果より、旅行は利用者に、生活意欲の向上や転倒に対する自己効力感を高める可能性が示唆された。理学療法士が旅行に同行することによって、旅行に対する安心感をもたらし、現場での動作指導やアドバイス、家族への介助法伝達を行うことができる。このような関わりは、生活意欲や転倒に対する自己効力感の向上を促進し、外出への自信をもたらす一助となっていると考える。【理学療法学研究としての意義】 介護保険下の通所・訪問リハビリでは、利用者の生きがいや趣味を目的とした外出や旅行への介入が難しい現状にある。今後、理学療法士が旅行に関わる意義を明確化してくことで、在宅利用者の活動範囲の拡大やQOL向上へ更に介入していくことが出来るのではないかと考える。