抄録
【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下膝OA)は外来診療にて最も多い対象疾患の一つであり,膝OAの特徴をとらえることは,理学療法士において最も重要な要件の一つである.本研究は,膝OA患者に対して,重症度を変形性膝関節症患者機能評価尺度(Japanese Knee Osteoarthritis Measure以下JKOM)で,精神面をうつ性自己評価尺度(Self-rating Depression Scale以下SDS)で,QOLをSF-8(SF8 Health Survey)を用いて測定し,そして患者群を耕地群と市街地群に分類し,検査結果から地域差があるかを調べることを目的としている.地域リハビリテーションの実施において,地域における症状の差,うつなどの精神状態を把握することは,今後の理学療法において重要なことと考えられるからである.【方法】 当院外来通院している膝OA患者28名(76±18歳)とした.対象者全員に対し評価尺度として,SDS(うつ性自己評価尺度),SF8(精神的健康感:以下MCS,身体的健康感:以下PCS),JKOMを用い調査した.また,地域差として地形図を用い住所から,耕地群と市街地群の2群に分類した.各評価尺度間の相関はSpearman積率相関係数にて求め検討した.統計処理はR ver2.13.0を用い,危険率は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に事前に研究の目的・方法を書面,口頭にて説明し対象者の同意が得られた場合のみ同意書に署名を得て調査を行った.また,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関しては,当院の倫理委員会で承認を得た.【結果】 調査表回収率93%,有効回答86%だった.重症度として市街地群ではステージ1~4がそれぞれ6名,2名,2名,2名であったが,耕地群では3名,3名,6名,4名と,耕地群において重度な者が多かった.対象者全員のJKOM得点平均値は,耕地群32.9±32.1点,市街地群35.3±47.7点であり有意差はなかった.SDSは耕地群26.6±5.9点,市街地群33.4±9.9点であり,耕地群において低くなる傾向があった.対象者全員のSDSとMCS,JKOMとPCS間では有意な相関が認められた.耕地群では,JKOMとSDS,JKOMとPCS,SDSとMCS間で高い相関があった.市街地群では,SDSとMCS ,JKOMとPCSの関連については適度な相関があり,JKOMと痛み,SDSと痛みについては相関が認められた.【考察】 JKOMは膝の疼痛とこわばり,日常生活の状態,普段の活動,健康状態の25項目から構成されている.相関係数においてJKOMとSDS,SDSとMCSが有意な相関があるが.それぞれ痛みとの相関は低かった.これらのことは耕地群において,膝OAの重症度も重度であるにも関わらず痛みが精神面や普段の活動に影響を及ぼさない傾向があることを示唆しているものと考えられる.しかし,市街地においては,痛みはJKOMやSDSと相関が高く,精神面や普段の活動に影響を及ぼすと思われる.これらは,耕地群において家の周りの道路などに傾斜が見られるが,普段の生活において近隣に買い物をする場所が無く,自家用車や送迎バスを頻繁に使用することで,高齢者においても運転習慣や外出頻度が多くなることが一因と考えられる.また,耕地においては,農耕に従事することが日常であり,生活の中で生産活動に関わっている者が多い.このことは,痛みはあったとしても,痛みの自覚度のQOL全体に及ぼす影響は相対的に低下し,精神的な影響を軽減しているのではないかと考えられる.理学療法においては,膝OAはその重症度と運動機能に治療の関心が向けられるが,今後のリハビリテーションを考えると,よりQOLの向上を念頭において治療を提示する必要がある.今回の結果は,膝OAの痛みは重症度との関係よりも,居住地域によるQOLの差が影響を及ぼしているというものであった.このことは,痛みの自制は疾患の重症度によるのではなく,生活全般が影響していると考えられるものである.【理学療法学研究としての意義】 今回,地域居住格差における膝OA患者の重症度が精神的不安感と生活の質(以下QOL)に及ぼす影響の有無を調査することとした.居住地域による地差を明らかにすることで,今後,理学療法士が地域活動へ取り組む予防プログラム立案の一助となればと考える.