理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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荷物所持方法の違いが高齢者の立位姿勢に与える影響
伸井 勝山川 亜里佳中川 博文
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p. Eb0622

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抄録

【はじめに、目的】 高齢者の転倒事故による骨折は寝たきりや要介護状態につながる可能性が高く,高齢化が急速に進むわが国にとって重要な問題である.飯干ら(1997)は高齢者の転倒事故調査で31%が荷物所持状態であり,荷物所持と転倒事故に何らかの関係があることを報告した.しかし,これは聞き取り調査によるもので,転倒時の荷物の種類や持ち方,あるいは具体的状況等も明らかにされていない.そこで,本研究は荷物所持方法の違いが高齢者の立位バランスに与える影響を力学的に明らかにする目的で検討を行なったので報告する.【方法】 年齢が71~80歳の高齢者10名(平均年齢±標準偏差;76.6±2.8歳)を対象とし,20~22歳の若年者12名(20.9±0.9歳)と比較した.本研究は荷物所持時の姿勢制御機能を評価するために,(株)アニマ社製の下肢加重計を用いて,開閉眼による30秒間の立位時の身体動揺を解析した.データのサンプリングは20Hzとした.荷物の種類はリュックサック,斜めがけ鞄,手提げ鞄の3種類で,荷物不所持,リュックを背負う,斜めがけ鞄を斜めに掛ける,斜めがけ鞄を肩に掛ける,手提げ鞄を肩に掛ける,手提げ鞄を肘に掛ける,手提げ鞄を手で持つ等計7通りの方法で所持した.荷物の重さは5kgf一定とし,リュック以外は全て右側所持とした.足位はRomberg肢位とし,開眼時は1.5m前方の目の高さに設置した十字の視標を注視させた.若年者と高齢者間,および各荷物所持間での総軌跡長により評価した.【倫理的配慮、説明と同意】 人権には十分配慮し,説明は文書にて口頭で行い同意が得られた者を対象とした.なお,本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 若年者は開眼状態で,手提げ鞄を肩に掛けた時の総軌跡長は平均34.6cmで身体動揺が最も大きく,手提げ鞄を手に持つ時が29.3cmで最も小さかった.閉眼状態では,荷物不所持は41.6cmと身体動揺が最も大きく,手提げ鞄を手に持つ時が37.3cmと最も小さかった.高齢者は開眼状態で,荷物不所持が48.9cm,手提げ鞄を肩に掛けた時が49.9cmと身体動揺が大きく,斜めがけ鞄を斜め掛けた時は44.6cm,手提げ鞄は45.4cmと身体動揺が小さかった.閉眼状態では,荷物不所持が70.7cmと身体動揺が最も大きく,開眼に比べ有意に大きかった(p<0.005).なお, 身体動揺が最も小さかったのは手提げ鞄を手に持った時で,これは若年者の場合と一致した.若年者と高齢者の体重が荷物所持時の身体動揺に及ぼす影響を調べたが,若年者は体重増加に伴い身体動揺は減少傾向を示すが,高齢者は反対に増加傾向を示した.【考察】 身体動揺は荷物不所持で最も大きく手提げ鞄の手所持が最も小さかった.その原因として,1)合成重心が低下したこと,2)持つ順番が最後だったので持ち越し効果の影響が考えられた.この2点で,1)の場合は手所持以外で合成重心高を一致させる方法,2)の場合はクロスオーバーデザインによる順序性を変えた状態で実験を行った.その結果,両者ともに手提げ鞄を手で持った時の身体動揺が小さく,荷物不所持はクロスオーバーデザインによる実験でも身体動揺は最も大きい値を示した.結果的に,手で荷物を所持した時が他の方法や何も所持しない場合と比べ身体動揺が最も小さかった.現状で,その要因を確定することは困難であるが,手の指先の皮膚に軽く触れること(Light touch)が身体動揺を軽減するというJeka ら5)の興味深い報告があり,今回の結果はこれと同様のメカニズムが関与しており,これが立位の安定化のスイッチとなったものと考えられた.また,体重は姿勢の安定性維持にとって重要な因子であるが,高齢者は重くなるに従い不安定となった.これは加齢等により質量に対する姿勢保持機能低下が身体動揺を高める結果になったのではないかと考えている.【理学療法学研究としての意義】 実際の転倒事故は身体的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発生するため,本研究の結果を直接,転倒問題と結び付けることはできない.今後,実際の転倒事故と今回の実験結果の違いを明らかにすることで,荷物所持と転倒問題との関連性がさらに浮き彫りにされてくると考える.リハビリテーションにおいて,今回の結果で得られた荷物所持や体重が与える影響は,高齢者のバランス訓練を考える上で重要なヒントになると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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