理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
ALS患者が大学で講義することの意味
亘理 克治
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キーワード: ALS, 理学療法教育, 卒前教育
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p. Ga0190

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抄録
【はじめに、目的】 理学療法士教育は卒前教育のみで完結するものではなく,卒後も生涯にわたって継続されるものである.また,卒前教育の到達目標は「理学療法の基本的な知識と技能を習得するとともに自ら学ぶ力を育てる」ことであるため,養成過程の中で「自ら学ぶ力を育てる」ための動機付けを行うことが重要になると考える.  これらを養うための一つとして,在宅で療養している筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)患者をお招きし,病気の発症から現在に至るまでの過程,医療に携わる学生への想い等を「ベッドから生を考える」~第三の誕生~と題して臨床十種前の3年生が講義を受講する機会を得た.そこで,卒前教育の一つとして受講したALS患者からの講義が理学療法士として社会で活躍するようになった時に,どのような意味をもつのかを検討した.【方法】 対象は,2009年度,当大学理学療法学科3年生在学時にALS患者の講義を受講し,2011年度より臨床で勤務しはじめた理学療法士10名とし,卒業生名簿より無作為に抽出した. 調査項目は,(1)勤務施設と担当患者の特性,(2)講義を受講してよかったか,(3)その理由,(4)理学療法士として勤務し講義を思い出したことがあるか,(5)あればその時の状況,(6)ALS患者が講義に来ることの必要性,(7)その理由,の7項目とし,電話による調査を行い検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 講義されたALS患者のご家族と調査対象となった理学療法士に,研究の目的,方法について十分な説明を行い同意を得た.【結果】 調査対象理学療法士は,男性5名,女性5名であった.勤務施設と対象患者の特性は,急性期病院7名,回復期・維持期病院2名、老人保健施設1名であった. 全員が受講して「良かった」と答えており,その理由はALS等の難病患者に直接出会う機会はほとんどないから貴重な経験をできた,ALSのイメージができた等の肯定的な意見であった.講義を思い出したことがあると答えた者は3名,なかった者は7名であり,その時の状況は,ALS患者を担当した時1名,他の理学療法士がALS患者を担当しているのを見た時1名,ターミナル期の患者を担当した時1名であった.思い出したことはなかったが「担当患者にALSの方がいれば思い出しただろう」という意見もあった.ALS患者が講義に来ることは必要であると全員が答えたものの,ALS患者に限らずさまざまな疾患や障害をもった方々にも来ていただきたいという意見が多かった.【考察】 ALSは治癒のための有効な治療法がない難病であることは周知の事実であるが,学生はそれを理解しイメージすることができない.また,発症後の経過は人工呼吸器の装着や非装着,在宅や施設等の療養環境を含めて個々人によってさまざまである.そのため,理学療法士の幅広い知識や技術が必要となり,疾患の特性上,死生観も含めた基本的な倫理観も兼ね備えておかなければならないと考える.それらを卒前教育の学内における講義のみで養うことは難しく,臨床実習においても,難病患者を担当することは少なく,眼前の担当患者の評価等に終始してしまうことが容易に想像される.また,昨今の18歳人口の減少による大学全入時代の到来による学生の全般的な学力低下も指摘されているため,さまざまな気付きを設定する必要性があると考える. 学生にとって患者が大学にて講義を行うことはとても興味深いことであり,実際の患者のイメージがふくらみ,疾患や障害を机上でしか考えることができなかったことから脱却し,臨床実習,卒後教育へと繋がることが想定される。その中でも,ALSのような難病患者の講義は,今までの人生の中で経験することのできなかった事であり,死を宣告された患者を目の当たりにし,そこからさまざまなことを学び取り,理学療法士として活躍する上で,貴重な体験になり,「自ら学ぶ力を育てる」ためのきっかけになったと考える. 今後はさらに高齢化が進み,ターミナル患者を担当することも予想できるため,卒前教育においてALS患者の講義等を実体験とし経験を膨らませることが,理学療法士の倫理観を養う上でも重要であると考える. 【理学療法学研究としての意義】 理学療法士の卒前教育が卒後の理学療法士に及ぼす影響を調査,検討することは,卒前教育のあり方を検討する上で非常に重要なことであり,理学療法学研究としての意義がある.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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