抄録
【はじめに、目的】 PBLテュートリアル(以下、PBL)は能動的学習や臨床思考を向上させる手段として大学医学部に始まり近年では理学療法分野でも様々な形式で導入する養成校は増加してきている。PBLに対する学生の反応については多くの研究者で肯定的な意見が多い反面、否定的な意見も少なくない。本研究者も第12回リハビリテーション教育研究大会(2005年)で80%以上の学生が肯定的意見である旨を報告した。しかし、多くの研究ではその背景因子についての検討はきわめて少なく、本研究者も報告していなかった。本研究ではPBLに対する学生の好感度および取り組みについてその共通因子および各項目間の関係について検討することを目的とした。【方法】 対象は本学理学療法学科3年生全員56名(男性29名、女性27名)とし、年齢は20.5±0.6歳であった。シナリオはCVA片麻痺に設定し3つのPart(処方箋情報、リハ他部門情報、PT評価結果)での構成とした。PBLは週1回1コマ(90分)実施し14週間継続した。進行はシナリオPart1~3でのグループ討論による事実から問題点および仮説の設定と学習項目の抽出(Step1)、その後、学習項目の自己学習およびグループ内での発表を実施し(Step2)、全Part終了後にシナリオのまとめとして臨床推論を実施し、全体発表会による知識の共有をした(Step3)。全行程終了後、PBLに対する学生の好感度および取り組みに関する22項目の5段階評価によるアンケート調査を実施した。結果は5(肯定的意見)~1(否定的意見)というように数値化した。統計処理はSPSS statistics 20.0を用いて因子分析(主因子法)を実施した。因子抽出基準は固有値1に設定して共通因子を抽出、バリマックス法による回転を加えて、因子負荷量を抽出し、共通因子が反映している度合いを検討した。さらにSpearmannの順位相関係数による各項目間の関係について検討した。有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 アンケート記入者には研究に際してその目的の趣旨、プライバシーの保護、参加拒否・中止の自由、分析結果の開示などについて説明し、文書による同意を得ている。【結果】 PBLの好感度の平均は3.54±0.60、取り組みの平均は3.54±0.51であった。PBLの好感度の共通因子は「講義への不満」、「臨床思考獲得への期待」に設定し累積寄与率は46.774%であった。PBLへの取り組みの共通因子は「能動性」、「協調性」、「責任感」、「能率的学習」に設定し累積寄与率は58.939%であった。また各項目間の関係は「学習のしやすさ」と「理解しやすさ」との間(r=0.660)、「興味を持てる学習」と「もっと取り入れた方がよい」との間(r=0.609)で相関が高く、またグループ討論での「事実抽出」、「問題点抽出」、「仮説の設定」、「学習項目の設定」、「仮説の修正」が相互に高い相関(r=0.522~0.843)がみられていた。そして好感度と取り組みの総合評価の関係は弱いが有意な相関(r=0.382)がみられていた(p<0.01)。【考察】 約半数強の学生が好感を持ち、共通因子から通常講義では得られにくいものを求めていることが考えられた。PBLへの取り組みについては共通因子の影響が6割近くを占め、これらの因子は学生がPBLを有効に進めるのに必要な能力であり、逆にPBLの遂行により臨床思考に必要なこれらの因子を向上させることが可能であることが示唆された。各項目の関係ではシナリオから問題を解決していく過程での様々な作業は相互に相関が高く、これらのことから臨床思考に必要な作業が相互に関連して向上させることが可能であり、特に事実の抽出と問題点の抽出はかなり相関が高く、事実を見いだすことで自ずと問題点が抽出に繋がりやすいことを示唆していた。これらのことからPBLは臨床での患者の状態から問題点を発見する作業と類似しており臨床実習前の教育方法として有用であることを示唆していた。【理学療法学研究としての意義】 PBLは臨床思考に必要な因子が関係していることから、臨床思考に必要な能力を向上させることが可能であり、また臨床思考を関連づけて学習できることで臨床を見据えた教育に有効であると考える。