抄録
【はじめに、目的】 理学療法教育において、臨床実習はきわめて重要な位置を占めるものであり、本学においても最終学年の総合臨床実習を見据え、1学年から段階的に臨床実習を組込むカリキュラムを取っている。なかでも、早期臨床体験(Early Clinical Exposure; ECE)実習は、学生にとって最初の臨床早期暴露として重要な基礎実習と位置付け、本学でも1年次9月に3日間実施している。そこで今回、ECEの実習内容とともに学生に及ぼす影響について現状把握し、その在り方について検討するために、学生に対し無記名のアンケート調査を行い、若干の知見を得たのでここに報告する。【方法】 調査の対象は、本学部理学療法学科に在籍する1学年生58名(男性32名、女性26名)、平均年齢19.0歳で、アンケート回収率は98.0%であった。調査は基礎実習3日間終了後に行い、調査内容は主として、ECE実習(基礎実習)時期や期間、課題や見学した疾患名などの実習内容、実習中の自己評価・実習後の自己の内面的変化(医療人としての自覚や動機付け)、今後の課題、体調変化やストレスに関するものとした。設問は全53問で、選択と記述項目を併用し、順位付けには5段階評価を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本アンケート調査は、ECE実習の現状把握と今後の課題の検討のために集計・分析されるもので、結果は理学療法教育上においてのみ使用される。またアンケート調査は無記名であり、個人を特定し結果を個別に利用するものではない。以上を十分説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 実習時期について、適切と答えた学生が34名(58.6%)、やや早いと感じた学生が22名(37.9%)であった。実習期間では、適切、やや短いと答えた学生がそれぞれ46名(79.3%)、7名(12.1%)であった。本学ではECE(基礎)実習前に2日間のボランティア活動と報告・発表会を課しているが、基礎実習前にボランティア活動を行って良かったかどうか聞いたところ、とてもよかったが24名(41.4%)、だいたいよかった27名(46.6%)であった。報告・発表会については、とてもよかったが12名(20.7%)、だいたいよかったが35名(60.3%)であった。基礎実習の満足度について、とても満足が34名(58.6%)、だいたい満足が21名(36.2%)であった。基礎実習の自己評価について、時間を守るあるいは挨拶や言葉遣いの評価は概ね高かったが、コミュニケ―ションについて、特に患者様続いてスタッフとのコミュニケーション・対応に関して自己評価が低い傾向にあった。実習後、職業に対する意欲が増したかについて、全くそう思う、だいたいそう思うと答えた学生が、それぞれ40名(69%)18名(31%)と非常に高く、動機付けにおいて意欲を増すことにつながっていた。さらに実習後、医療人としての自覚が増したかについて、全くそう思う、だいだいそう思うと答えた学生が、それぞれ30名(52.7%)、27名(46.6%)であった。自分自身の今後の課題について具体的にあげてもらったところ、コミュニケーション能力、基礎知識、専門的技術、注意力や状況判断能力、信頼関係を築くための人間性などがあげられた。【考察】 本学におけるECE実習について、学生の満足度は非常に高く、また理学療法士の職業につくことに対する意欲を向上させていた。そのことは、本実習協力施設が大学関連施設および継続的かつ協力的な体制で依頼可能な近隣の実習施設において実施していることも少なからず影響を及ぼしているものと考える。本学においても理学療法養成教育導入として有意義であることが認識されたが、今後はその後の大学教育において、職業意欲を維持・向上させつつ、臨床現場との密な連携を図りながら、また学生の内面的変化も捉えつつ4年間の教育を進める必要がある。また教員と実習指導者との具体的な連携の仕方や教員の役割について明確にしていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 大学4年間の理学療法教育が、養成校教育から卒後教育へとその連続性の中で最初に位置付けられるものであれば、大学教育の占める意義は重大である。そのような中で、理学療法学科在籍の学生が、理学療法の出発点でもある臨床への興味を喚起し、また医療人としての在り方を模索する出発点となるECE実習は意義深いものと考える。限られた大学教育4年間を養成教育の観点からより有意義なものにするために、ECE実習の在り方について引き続き検討を重ねたい。