抄録
【はじめに、目的】 鎖骨、胸骨より頭側で頭蓋底までの範囲に発生する悪性腫瘍の総称である頭頸部がんでは、原発巣に対する手術のほか、頸部リンパ節転移に対する頸部郭清術がよく行われる。術後には僧帽筋麻痺を認める場合もあり、肩関節の運動障害、二次的な癒着性関節包炎による肩関節可動域制限や疼痛などの症状が出現しやすい。また、周術期合併症として嚥下性肺炎も多く、理学療法の適応となる。頭頸部がんに対する術前のリハビリテーションは、インフォームドコンセントの一環として、障害受容の準備、闘病意欲を高める、治療効果を高めるなどの役割をもっているとされているが、頭頸部がんに対する理学療法介入の効果に関する研究は我々の調査した範囲内ではなかった。リハビリテーション分野では、2010年の診療報酬改定で新たに「がん患者リハビリテーション料」が新設され、がん患者に対する予防的な介入も可能となってきている。これまでのがん患者に対する理学療法では廃用症候群に対する治療が多いと考えられる。今後は廃用症候群を未然に防止するような介入が必要であり、入院期間を短縮させるような治療効果が期待される。そこで本研究の目的は、頭頸部がん患者に対する術前の理学療法介入が在院日数に及ぼす影響を調査し、今後の頭頸部がん患者に対する理学療法の介入方法について考察することとした。【方法】 対象は、2008年4月1日から2011年3月31日までの3年間において当院で頭頸部がんに対する原発巣の手術あるいは頸部リンパ節転移に対する頸部郭清術を施行した患者とした。除外基準は理学療法を1度も実施しなかった患者とした。頭頸部がん患者は電子カルテより後方視的に調査し、対象となった延べ人数は65名であった。本研究では、術前理学療法を行っていた10名を術前介入群、術後から理学療法を開始した55名を術後介入群とした。検討項目は、年齢、手術日から理学療法が開始されるまでの日数(以下、術後開始日数)、在院日数の3つとした。統計ソフトはSPSS10.5を使用し、正規性の検定(Kolmogorov-Smirnov検定とShapiro-Wilk検定)、等分散性の検定(Levene)、2群間の有意差の検定(unpaired t-test、Welch検定、Mann-WhitneyのU検定)を用いて、検討項目について比較した。なお、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、当院の倫理委員会の承認を得て、当院における臨床研究における倫理指針に沿って行った。【結果】 2群の検討項目の正規性の検討を行った結果、年齢、在院日数では正規性が認められたが、術後開始日数では認めなかった。また、等分散性の検定を行った結果、在院日数では2群間に等分散性を認めなかった。これらの結果を踏まえ、年齢についてはunpaired t-test、術後開始日数はMann-WhitneyのU検定、在院日数ではWelch検定を用いて比較した。術前介入群と術後介入群のそれぞれの年齢、術後開始日数、在院日数は、61.7±11.4歳と62.3±9.8歳、12.3±6.8日と18.8±13.1日(P<0.05)、38.9±15.0日と83.2±50.3日(P<0.05)であり、術後開始日数と在院日数で有意差が認められた。【考察】 本研究の結果では、術前介入群のほうが術後介入群よりも早期に術後の理学療法が開始されていた。この結果は、術前の介入は術後の介入時期を早める効果があると考えられた。入院から退院まで一貫したチームアプローチの1つとして理学療法を提供する場合、術前介入は術後の理学療法を円滑に行う上でも有効と考えられた。頭頸部がん患者に対する術前の理学療法介入によって在院日数を短縮させる可能性を示唆していた。しかし、本研究の術前介入群のサンプル数は少なく、加えて術後介入群の在院日数のデータはばらつきが大きいため、今後もデータを増やして検討する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、頭頸部がん患者に対する術前理学療法の介入は在院日数を短縮させる効果がある可能性を示し、理学療法を管理運営するうえで考慮すべき有用な知見を提供することができた。