抄録
【はじめに、目的】 理学療法士養成校(以下、養成校)における小児理学療法学教育の課題を調査するため、平成22年に東北地方の15校の養成校を対象とし、アンケート調査を実施した。回収率は60%で、課題として「実習施設の不足」、「子どもと接する機会の少なさ」、「学生の興味・意欲の低下」、「カリキュラムの問題」、「教員の研修の困難さ」、「教員の興味の低下」、「教材の不足」が挙げられた。また現在の臨床での小児との関わりについての調査では、教員の臨床経験の継続が困難だということが明らかとなった(牧野,2011)。今回、これらの課題をより明確にして解決に導く一助として、教育経験豊富な教員にインタビュー調査を実施し、今後の小児理学療法学教育の在り方や創意工夫点を見出すことを目的とした。【方法】 対象は養成校において小児理学療法学教育に5年以上関わっている教員(常勤または非常勤)9名で、当該勤務施設やいくつかの養成校からの推薦紹介により選出した。直接または電話による半構造化インタビューを実施し、内容はすべてICレコーダーにて録音した。インタビューでは「養成校における小児理学療法学教育に関して課題だと思う点および授業で工夫している点」、「教員の臨床経験継続の必要性に関する考えと臨床的感性を維持するために実践している点」を質問した。分析はインタビュー内容から逐語録を作成し、意味内容を変えないように一文化する作業を行った。そこから質問の回答に該当すると思われる箇所を抽出し、ひとつの話題をまとめグループ化した。グループ化したものを類似性に従って分類した。【倫理的配慮、説明と同意】 事前に電子メール等で研究目的等を記載した文書を送信し内諾を得た。またインタビュー開始前にも説明し、インタビュー協力をもって同意が得られたものとした。また本研究は所属する施設の倫理委員会の承認を得ている。【結果】 対象者の属性は、男性7名・女性2名、常勤8名・非常勤1名、教員年数平均15年目であった。インタビュー実施方法は、直接インタビュー6名、電話インタビュー3名であった。インタビューから得られた回答と、グループ化によって得られた回答数を各項目の後ろに記す。授業に関する課題として、障害児と接する機会が少ない・機会を設けるのが困難(4)、実技練習が困難(4)、授業時間の不足(3)、正常発達に触れる機会が少ない(2)、臨床をイメージしにくい(2)、小児専門の教員の配置が少ない(2)が挙げられた。また、正常発達の理解が重要(6)、小児の特徴と小児と成人との共通点の理解が重要(3)という意見が挙げられた。工夫している点として、他の世代・他の疾患と関連付けた授業(5)、学生を保育園に連れて行く(2)が挙げられた。授業中に実技練習は困難であるが、姿勢反射や正常発達を体験してもらう(3)という意見も挙げられていた。課題で臨床をイメージしにくいという意見があったが、授業ではビデオや人形を使用したり(8)、自分の臨床経験を紹介したり(3)する等の工夫がみられた。教員の臨床経験継続に関しては、重要であるという考えがほとんどで、定期的あるいは不定期に、小児施設や病院、自治体の事業、学校等に関わっていた。【考察】 課題として、障害の有無に関わらず子どもと接する機会の少なさが挙げられ、正常発達や障害児に対する理学療法のイメージのしにくさにつながっていると思われる。また学生同士では介入技術等の実技練習が困難との意見も挙げられた。これらの課題に対し、保育園実習や、ビデオを使用した学習、学生が体験できるよう工夫しているという意見があった。視覚や聴覚、触覚など多くの感覚を使い、また考えさせることで、学生の記憶にとどまりやすいのではないかと考える。小児理学療法学教育における重要な点として、正常発達の理解、小児と成人との共通点の理解の2点が挙げられていた。小児は発達という特徴があるものの、理学療法の流れや考え方は対象者の年代に関わらず共通していると思われる。他の世代や他の疾患と関連付けることで、小児領域を特別な領域と感じず捉えることができ、そのように教育を考えていくことが重要ではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 近年養成校が急増しており教育や教員の質の低下の問題が生じていると言われている中、他の養成校の取り組みや教育経験豊富な教員の考えを知る事は、若手教員が授業を考えていく上での一助となると考えられる。小児領域に関わる理学療法士の連携は重要であり、このような調査を実施し発信することが連携にもつながり、以上のようなことから本研究は意義があると思われる。