抄録
【はじめに、目的】 理学療法を行う上で日常の動作や歩行を観察し,その状態を解釈することは治療を組み立てていくうえでとても重要になる.しかし,一般的に行われている動作分析では,そのポイントや捉え方には,観察者の熟達度により個人差が生じるとともに記録法に関しても標準化が不十分である.そのため,経験の少ない学生にとって,動作分析の結果から障害像の焦点を把握できないことが多い.近年,簡便に使用でき安価である程度の定量化が可能であることから,ビデオカメラを用いた動作分析の信頼性に関する研究報告がなされている.しかし,動作解析に使用するプログラムにより信頼性に影響がでるため,学生教育において使用するためには検討が必要になる.そこで,学生教育の中で動作分析を学ぶ一つの手段として使用でき,さらに測定作業が容易な動作測定プログラムMMP(Motion Measurement Program:MMP)の作成を行った.本研究の目的は,作成したプログラムの信頼性を求め,その有用性について検討するとともに一般化可能性係数(generalizability coefficient:G係数)を算出し,測定に必要な検査者数と適切な測定回数についても検討を行うことである.【方法】 検者は、本学科に在籍する学生7名(測定経験者3名、未経験者4名)にMMPを使用して角度測定を行わせた。身体に密着する衣服を着用した被検者に右側の大転子・膝関節外側裂隙・外果の合計3箇所に反射マーカーを貼付した状態で,両上肢を前面で組んでもらい,端坐位からの立ち上がり動作を矢状面より撮影した.撮影した動画は、フリーソフト(AVItoSTILL)を使用し立ち上がり開始から終了までの一連の動作を1秒間に30フレームの連続した静止画に変換した。 MMPの具体的な操作方法としては,静止画像上の3個の反射マーカー上を選択して座標を検出し,角度を算出した.各検者には,事前に測定方法を書いたマニュアルを渡し,その後デモンストレーションを交えながら測定方法を説明した.なお,任意に選んだ4枚の画像を使用し1つの画像に対して3回ずつ測定させ,計測された角度の値は,測定にかかわらない2人の研究者が確認を行いながら転記した.解析方法は,一般化可能性理論を用いて,各測定者が測定した膝関節屈曲角度の測定値の分散から級内相関係数Intraclass correlation coefficient(以下ICC)を求め,検者内信頼性ICC(1,1)と繰り返し回数毎の検者間信頼性ICC(2,1)を検証した.その後,推定された測定の分散からG係数を算出し,測定に必要な検査者数と適切な測定回数を検討した.なお,本統計解析にはSPSS ver14.0 for windowsを用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者全員には本研究の趣旨と内容について説明し理解を得た上で協力を求めたが,研究への参加は自由意志であり被験者にならなくとも不利益にならないことを十分に説明し,同意を得た後研究を開始した.【結果】 4枚の画像の角度の平均値は83.9-88.3度の範囲内で,各画像の測定結果の標準偏差は0.343-0.996度の範囲内にあり,ICC(1,1)は0.923,ICC(2,1)は0.855であった. 7人の検者で,画像を3回測定した際のG係数を求めた結果,0.98であった.さらに,分散成分の推定値をもとに測定に必要な検査者数と測定回数を変化させて検討した結果,G係数が0.9以上であることを条件とした場合,測定者が1名の場合2回以上測定が必要であり,測定者が2名以上であれば測定回数が1回でよいことがわかった.【考察】 MMPを作成するにあたり経験者と未経験者との間に差が生じないように測定における作業工程はできる限り簡素化するように努めた.実際,どういった画像解析ソフトを使用するかで作業工程は異なるため過去の報告結果を用いて解析ソフト間の信頼性について比較検討を行うことは難しいが,MMPの使用において特に経験者・未経験に関係なく信頼性が確認されたことは他の画像解析ソフトと比較しても有益な結果であったと考えている.今後の課題として,どのように対象者を撮影すればより客観的なデータがとれるのか,また得られたデータから現在起きている動作をどのように解釈していくのかといったことを学生と一緒に検討していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 ビデオカメラを使用した動作解析は,簡単に行えるといった利点があるがその適用と限界をきちんと理解し,その補助的なツールとしてMMPを使用していくことで動作に対する理解度の改善と更なる学習効果を高めるのではないかと考えている.