抄録
【目的】 直接患者の身体に接し治療効果を得る理学療法士(PT)において,患者の身体状況を把握することは重要であり,不可欠である.しかし,患者の評価は担当PTの知識,技術によって評価法の選択も異なり,機能や能力の解釈に違いが生じるとの報告がある.一方,近年,PTの質の低下を問題視する報告が増えている.そこで今回,脳卒中患者に対して実施しているPT評価の主観的な評価頻度,評価方法の手段,PT評価に対する自信について,臨床経験年数による差の有無を検討することで,PTとしての臨床能力レベルを考察した.【方法】 対象は,臨床現場に常勤している76名のPTとした.平均年齢は26.3±4.4歳,経験年数は平均3.6±3.1年目であった.内訳は,臨床1年目17名,2~3年目33名,4~5年目10名,6年目以上16名であった.PT評価についての質問は,臨床で行いうるPT評価項目を武田らによる調査を参考に27項目選出し,この27項目の評価に対する主観的な評価頻度(主観的評価頻度)を6段階で回答させた.また,27項目の評価の優先順位,27項目の評価方法(文献などによる一般的な評価法,独自の評価法)における主観的な評価頻度,評価に対する自信について5段階で回答させた.アンケート結果をもとに,優先順位において1~5位と回答された項目毎の人数を算出し,人数の多い順に順位付けした.そして,経験年数によって,1年群,2~3年群,4~5年群,6年以上群の4群に分け,経験年数別の相関について検討した(Spearmanの順位相関).さらに,各評価項目における主観的評価頻度,一般的な評価法,独自の評価法,主観的自信に関して,経験年数別に比較した(Kruskal Wallis検定).【説明と同意】 本研究にあたっては,藤田保健衛生大学疫学・臨床研究倫理審査委員会の許可を得た上で実施した.対象者には,本研究の目的と倫理的配慮を口頭と紙面にて十分に説明を行い,同意が得られた場合に同意書に署名を頂いた.【結果】 主観的評価頻度の順位の相関は,1年群と2~3年群(rs = 0.68),1年群と4~5年群(rs = 0.61),2~3年群と4~5年群(rs = 0.87),1年群と6年以上群(rs = 0.46),2~3年群と6年以上群(rs = 0.71),4~5年群と6年以上群(rs = 0.43)であり,経験年数1~5年目の経験年数が短いPT同士では相関が高く,6年以上群のPTと1~5年目(1~5年群)のPTとの相関係数は低くなる傾向にあった.臨床経験年数に関わらず,主観的評価頻度の順位が高い項目は「運動麻痺」と「歩行」であった.運動麻痺の評価は,文献などによる一般的な評価法の評価頻度が高かった.歩行は,経験年数が長くなるほど,独自の観察による評価頻度が高くなり,評価に対する自信も高くなった.「巧緻動作障害」,「高次脳機能障害」,「整容動作」,「入浴動作」は,経験年数に関わらず主観的評価頻度の順位が低く,評価に対する自信も低かった.一方,「全身耐久性」,「呼吸機能障害」,「食事動作」,「排泄動作」は,経験年数が長くなるほど主観的評価頻度の順位が高く,評価に対する自信も高くなった.【考察】 機能変化を段階的に捉えやすい運動麻痺は,Brunnstrom stage,脳卒中機能評価法(SIAS)など多くの標準化された評価法が存在するため,経験年数に関わらず,評価法として採用するPTが多いと考えられた.歩行は,観察すべき重要な視点に自信が持てない新人ほど,歩行速度などの定量的な評価に頼る傾向にあると考えられた.巧緻動作,高次脳機能,更衣,整容などのADLは,作業療法士,言語聴覚士からの情報提供に依存する傾向にあると考えられた.一方,呼吸機能や食事動作,排泄動作などのADLは,経験年数が増すに連れて評価頻度が増し,その経験とともに自信も増加することから,患者の生活状況に配慮した評価ができるようになるには,4~5年の経験年数が必要と考えられた. 【理学療法学研究としての意義】 今回,経験年数別に理学療法評価に対する意識調査を行ったことにより,食事動作,排泄動作などのADLへの介護負担感に配慮した評価ができるようになるには,ある程度の経験年数を必要とすると考えられた.一方,現在のPTの就職状況においては,養成校を卒業とともに一人職場へ就職する者も多く存在する.これらのことから,免許取得後5年程度の間に多くの臨床技術を学べる卒後教育システムを充実させる必要があると考えたれた.