理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-17
会議情報

ポスター発表
頚部屈曲時における頭部角度の違いが随意的咳嗽力へ及ぼす影響
垣内 優芳森 明子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】肺炎は日本人の死因第3 位であり、誤嚥性肺炎が占める割合は高い。また、誤嚥性肺炎では、摂食・嚥下機能低下とともに、気道防御機構としての咳嗽機能低下も認める。この咳嗽機能は知覚的側面(咳嗽反射)と運動的側面(咳嗽力)に分けられ、両者の低下は、誤嚥性肺炎だけでなく窒息の危険因子となる。臨床では、頭頚部が伸展し開口している症例に遭遇することが多く、摂食時には枕などを使用し頭部や頚部を屈曲位にポジショニングしている。摂食・嚥下面からは頭頚部と嚥下の関係について、頚部屈曲位が誤嚥予防肢位として推奨される報告がみられるが、頭頚部と咳嗽機能の関係については報告がごく僅かである。よって、頭頚部の位置関係と咳嗽機能の運動的側面である咳嗽力との関連を検討することは、誤嚥性肺炎や窒息の予防を考える上で重要である。そこで本研究では、頚部屈曲時における頭部角度の違いが随意的咳嗽力へ及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は、健常成人女性15 名(平均年齢27.7 ± 4.4 歳、体重51.9 ± 7.5kg)。頚椎疾患、呼吸器疾患の既往、胸腹部手術歴、嗄声、頚部可動域制限、感冒症状のある者は除外した。測定肢位はリクライニング座位45°とし、頭部角度は屈曲位、中間位、伸展位の3 条件に設定した。なお、いずれの条件においても頚部角度は30°屈曲位とした。頭部角度については、頭部中間位時の下顎骨オトガイ隆起と胸骨頚切痕までの距離を測定し、その距離を100%とし、80%の距離を頭部屈曲位、120%の距離を頭部伸展位とした。各3 条件において、随意的な咳嗽力を反映する咳嗽時最大呼気流速(cough peak flow:CPF)とともに、咳嗽の第3 相で求められる声門閉鎖機能の状態を知るため最長発声持続時間(maximum phonation time:MPT)も評価した。CPFの測定には、アセスピークフローメータにフェイスマスクを接続したものを使用した。測定時には、空気漏れのないよう測定器具を顔面に密着させ、最大吸気位からの随意的な咳嗽を全力で行うよう「この姿勢を保ったまま、できるだけ大きく息を吸って、できるだけ強い咳払いをして下さい」と説明した。測定回数は2 回とし最高値を採用した。MPTの測定時には「できるだけ大きく息を吸って、自然な話声でできるだけ一定の強さでアーと可能な限り長く発声して下さい」と説明した。測定回数は1 回とした。CPF、MPTともに咳嗽や発声は、自由なタイミングで行わせた。各条件の測定はランダムに実施し、各条件間は3 分間の休憩を行った。統計学的処理には、CPFとMPTの3 条件間比較は反復測定二元配置分散分析(Friedman法)、CPFとMPTの相関関係はSpearman順位相関を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守した上で研究計画を立案し、施設長に承諾を得て実施した。なお、全ての対象者には紙面および口頭で本研究の趣旨と目的等の説明を十分に行い、本研究への参加について本人の自由意思による同意を文書にて取得した。【結果】頚部30°屈曲位+頭部屈曲位でのCPFは275.3 ± 87.5L/min、MPTは19.0 ± 5.7 秒、頚部30°屈曲位+頭部中間位でのCPFは317.3±95.8L/min、MPTは18.9±5.6秒、頚部30°屈曲位+頭部伸展位でのCPFは300.7±91.3L/min、MPTは18.4±6.4秒であった。各条件間においていずれも有意差はなかった。頚部30°屈曲位+頭部伸展位にのみCPFとMPTに相関関係を認めた(r=0.46、p<0.05)。【考察】頭頚部の複合屈曲では、気道抵抗が増すと同時に、咳嗽の第2 相の深吸気で求められる上部肋骨や鎖骨の挙上が妨げられるため、効果的な強い咳嗽力の発揮は困難であると考えられる。しかし、今回の結果ではCPFの値は頭部中間位に比べ、頭部屈曲位で低い値を示すも有意差は認めなかった。また、頭部伸展位では、スニッフィングポジションとなり声門閉鎖機能が働きにくい状態となり咳嗽力低下が生じるのではないかと考えたが、実際には頭部屈曲位や中間位と比べCPFやMPTに有意差はなかった。ただし、頚部30°屈曲位+頭部伸展位の条件にのみ、CPFとMPTに相関を認めたことから、この条件下では声門閉鎖機能が他条件よりも求められ、声門閉鎖が困難で発声が難しい様な症例では随意的咳嗽力も低下してくる可能性があり、ポジショニングに注意が必要であると考える。今回、各条件下におけるCPFとMPTの明らかな差は認めなかったが、今後、頭頚部の異なる角度での確認が必要である。【理学療法学研究としての意義】誤嚥予防肢位としての頚部屈曲位が、実際には配慮のない頭部の位置関係により咳嗽力に悪影響で、不利な状況を及ぶす可能性がある。対象者の咳嗽力に関連する因子の1 つとして、頭頚部にも着目し、その位置関係の意義を理解し、可動性確保やポジショニングに努めることが重要であると考える。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top