理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-04
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一般口述発表
介護予防の2次予防事業参加者の身体機能と健康関連QOLなどの精神心理的評価との関連
新井 武志大渕 修一小島 成実河合 恒
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抄録
【はじめに、目的】介護予防事業では,単に身体機能の向上を目指すだけではなく,主観的健康観や健康関連Quality of Life(健康関連QOL),自己効力感などの精神心理的な要因も改善するように働きかけることが求められている。身体機能と自己の健康等に関する主観的な認知は関係することが示されている一方で,身体機能はQOLや自己効力感などの主観的な認知には直接影響しないという見解もあり,身体機能と精神心理面の評価項目との関係性について一定の結論は得られていない。本研究では,要介護状態に陥るリスクが高いとされる介護予防の二次予防事業の参加者,いわゆる虚弱高齢者の身体機能と精神心理的評価項目の関係を検証することを目的とした。【方法】対象は,東京都A市で2次予防事業として実施された運動器の機能向上プログラムに参加した170名(男性53名,女性117名,平均年齢78.6±5.6歳)であった。本研究の評価項目は,身体機能項目として,5m最大歩行時間[最大歩行]および通常歩行時間 [通常歩行],Timed up and Go[TUG],開眼片足立ち時間[片足立ち],ファンクショナルリーチテスト[FRT],握力,等尺性膝関節伸展筋力[膝伸展筋力],下肢の筋パワーを外挿する膝関節伸展角速度[膝角速度]を評価した。精神心理的評価項目については,自身の健康状態を「1.よい」~「5.よくない」の5段階で回答する[主観的健康観],健康関連QOLとして Shrot-Form-36 Items(SF-36)の下位8項目, [身体機能],[日常生活役割(身体)] ,[体の痛み] ,[全体的健康観] ,[活力] ,[社会生活機能] ,[日常生活役割(精神)] ,[心の健康],うつ傾向の評価としてGeriatric Depression Scale簡易版[GDS],転倒自己効力感としてModified Fall Efficacy Scale[ MFES]を調査した。統計処理として,各身体機能評価項目と精神心理的評価項目の相関関係を,年齢と性別を調整変数とした偏相関係数にて評価した。統計的有意水準は,いずれも危険率5%未満とした。統計解析にはPASW Statistics(IBM社製)を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施に当たっては,A市の介護予防事業担当部局の許可を得たうえで,研究者が事前に研究の概要、目的、利益と不利益などを口頭と書面にて参加者に説明し,研究参加の意思を書面にて確認した。なお,この研究計画は東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター)の研究倫理審査委員会に倫理審査を付託し承認を得たうえで実施した。【結果】握力はSF-36の [日常役割(身体)],[体の痛み],[全体的健康観],[活力],[日常役割(精神)]および[GDS]と有意な相関を認めた。最大歩行および通常歩行はSF-36の[身体機能],[MFES]と有意な相関を認めた。TUGはSF-36の[身体機能],[日常役割(身体)],[全体的健康観]および[MFES]と有意な相関を認めた。他にFRTがSF-36の[身体機能]と有意な相関を認めた(P<. .01‐.05)。以上の相関関係は全て身体機能が高ければ精神心理的評価も高いという正方向の関係であったが,偏相関係数の絶対値は0.156‐0.392程度であり統計的には有意であったものの,その関係は中等度以下であった。また,[主観的健康観]はいずれの身体機能とも有意な相関を認めなかった。【考察】握力や移動能力等が,複数の精神心理的評価項目と有意な相関を示した。握力は一般的に全身の筋機能を代表する指標であり,また,移動能力は日常生活活動を支える基本機能である。虚弱な高齢者であっても,これらの機能が比較的高く,日常生活の活動性を高く保つことができている者は,健康関連QOL等を良好に保っている可能性が示唆された。しかし,有意であった相関関係も係数の絶対値は小さく,主観的健康観は身体機能とは相関しなかったことから,自身の健康等に関する主観的な認知には,身体機能以外にも広汎な要因が絡んでいると考えられる。今後,主観的な健康観等の認知に関連する多様な要因やその因子構造を明らかにした上で,運動介入を含めた高齢者支援の実践に役立てていく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】虚弱高齢者において健康観等の主観的な認知を高く保つには,筋力が強いことや歩行能力が高いといった身体機能が高いことは必要であるが,それだけでは十分ではないことが示唆された。主観的な認知には多様な要因が絡んでいることが想像され,身体的アプローチだけでなく,個人と社会・環境的因子とのつながりを考慮して支援していくことが重要であると考えられる。具体的には,身体機能を良好に保ちつつ,外出頻度を上げて社会とのつながりを保つなど,日常生活における心身の高い活動性につながる支援を行うことが必須と考えられる。近年,理学療法士が介護予防活動に関わることが増えてきたが,これら知見を介護予防における運動介入に生かしていく必要がある。
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© 2013 日本理学療法士協会
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