抄録
【はじめに、目的】 デイケアの目的に、脳卒中発症後のリハビリテーションで再獲得した機能や動作能力の維持・向上がある。なかでも、歩行能力はADLのなかで重要な位置を占める。過去の報告では、デイケア利用により、歩行速度やADLの改善することが示されている。しかしながら、デイケアを利用中に、逆に歩行能力が低下する例も経験する。そこで本研究では、当院併設のデイケアを利用開始後2年以上が経過した脳卒中者について、後方視的に歩行速度の経時的変化を調査し、身体機能や動作能力の経時的変化との関係について解析検討を行った。【方法】 2007年5月から2010年9月の間に当院併設のデイケアを利用し、2年以上、経過した脳卒中者107名(男性58名、女性49名)を対象とした。選択基準は、開始時の歩行能力が監視以上、指示理解が良好、初回発作の脳梗塞および出血とした。除外基準は、著明な疼痛・拘縮がある者とした。年齢は67.9±10.4歳(平均値±標準偏差)、発症後年数は1.5年±2.3年(最小3か月‐最大13年)であった。 調査項目は、歩行速度、下肢筋力、Timed Up and Go test(TUG)とし、デイケア利用開始前、利用後3か月、6か月、12か月および24か月の結果を抽出した。歩行速度は、10m歩行の最速歩行から算出し、利用開始前を基準とした比率を解析に用いた。下肢筋力の評価は多機能エルゴメーター(三菱電機エンジニアリング社製)を用いて、下肢最大伸展トルク(Nm)を測定し、体重で除した。また麻痺側の伸展トルクを非麻痺側で除し(麻痺側/非麻痺側)、健患比(%)を算出した。 統計解析は、全対象者の歩行速度において、多重比較検定(Dunnett)を用いて、利用開始前からの改善を検定した。また、歩行能力の改善する対象者と低下する対象者の相違を検討するため、2年後と開始前の歩行速度の比較より歩行速度増加群と低下群の2群に分けた。その後、各群内の評価時期による変化について、多重比較検定(Dunnett)を用いて検討した。また、群間による変化の相違を検討するために、各評価時期で対応のないt検定を用いた。有意水準は、5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、当院倫理審査会の承認を得て施行された。また研究の参加にあたり、研究内容を十分に説明し、同意を得た。【結果】 全体の歩行速度は、開始前と比較し、すべての評価時期で有意に改善した。歩行速度の増加群は、74名(年齢66.0±10.5歳、男性37名、発症後年数1.2±2.0年)であった。低下群は、33名(年齢71.8±9.0歳、男性21名、発症後年数2.1±2.7年)であった。増加群の歩行速度は、開始前と比較し、すべての評価時期で有意に改善した。麻痺側筋力、健患比およびTUGでは、開始前と比較し、6か月以降のすべての時期で有意に改善した。非麻痺側筋力においては、24か月後に有意に改善した。 低下群においては、歩行速度は、開始前と比較し24か月後のみで有意に低下した。他の評価項目においては、有意な差を認めなかった。増加群と減少群との群間比較では、歩行速度に関しては、開始前の評価で差を認めなかったものの、3か月以降24か月まで低下群で有意に低かった。その他の項目については、開始時に低下群で、有意に年齢が高く、健患比が低く、TUGが遅かった。また、3か月後に低下群で健患比が有意に低く、24か月後に低下群で、麻痺側・非麻痺側筋力が有意に低下していた。【考察】 デイケアを利用開始後、2年間の経過において、歩行速度は有意に改善していた。これは、維持期の脳卒中者においても、リハビリテーションを継続することの重要性を示している。一方で、全体の30%において、2年後に歩行能力が低下していた。歩行速度低下群における経時的な変化としては、歩行速度のみにおいて有意な低下を示した。また、これらの対象者は、歩行速度が増加する群と比較して、利用開始前において、高年齢、麻痺が重度、動作能力が低いことが結果から示唆され、開始時の状態がその後の歩行速度の経時的変化に影響することが伺えた。また、低下群では24か月で、増加群に比較して麻痺側および非麻痺側筋力が有意に低下しており、長期的な歩行速度の変化と下肢筋力の変化が関連していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 維持期脳卒中者の歩行能力の維持向上を目的とした、リハビリテーションにおいて長期的な視点からの治療アプローチに示唆を与えた点で意義がある。